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魔王は働きたくない  作者: 宮島闇継
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第六話:あいつ一人でいいんじゃないかな




 魔王軍はこれまでにないほど盛り上がっていた。なんたって、魔王がいなくなったのだ。

 何かと口うるさい魔王。引きこもりのくせに。

 何かと心配性の魔王。アホほど堅牢な不死力をもつくせに。

 何かと知恵のある魔王。使い所は自分の為に特化しすぎて魔族たちからは理解されないが。

 そうやって、十年間自由気ままに生き、魔族たちに地下での生活を強いていた魔王が人間の手によって捕まった。

 魔王を捕らえ、降伏勧告をしてきた人間たちは何も分かっていない。

 我ら魔族が魔王の命を危ぶむ? 笑い話もいいところだ。いつも心配しているのは魔王一人。心配しすぎて地下での生活を始めたのが魔王だ。

 魔族としては人間など淘汰してしまえばいいという声が殆どだ。共存など人間のこれまでのあり方からしてありえない。強者を強者と認められず弱者であれ、と自分勝手に振る舞う人間との共存など論外だ。

 奴らは間違えた。魔王を捕らえるという悪手。

 捕らえるのなら魔族の中の一人でよかったのだ。それだけで魔王は勝手に降伏するだろう。

 優しい優しい魔王様。アホで平和主義がすぎる魔王様。例え魔族全てが滅びようとも死ぬことのない魔王様。

 アホな魔王がいない今、魔族たちがするのは今まで散々溜まっていた衝動のまま魔王風に言う正当防衛を行使するまでだ。

「そういえば、魔王様は元気でしょうか?」

 ヴァストールが今思い出したかのように問う。

「さてね。そろそろ空腹に悩まされているんじゃない? あの方自称グルメだし」

 問いに答えるのは魔王軍幹部の一人エイラ。一応魔王軍将軍である。

「地下に入り込んでた人間は全て排除。第二陣も向かってきてたようだけど、半分が一瞬で溶けて撤退。いやー、驚くほど柔らかいねー人間って」

「あなたの基準値が間違っているのですよ。数千度の熱線を食らって耐えられるものなど魔族にも殆ど存在しません。魔王様は別として」

「規格外だよねー、魔王様だけはホント。働かないけど」

「働きませんけどね」

 鉄壁の城を作ることを一生涯の仕事として完遂した魔王のその後は本当にただのニートそのものであった。一応魔王を主とした魔王軍が存在はするものの責任者にやる気がないから軍が動くこともなくただただ暇を持て余していた。

 そこにふってわいたような魔王が人間に捕らえられたという一報。しかも、既に人間が攻め込んできてるという。

 そりゃ、全力で向かい討つさ。暇だから。地上まで行くさ、観光気分で。更に覚えていたら魔王も助けるさ、ついでで。

「それで、これからどうしますか? 魔王軍の殆どが地上観光に行きたいそうですけど、城を無人にするわけにも行きませんし」

「んー、とりあえず半分半分でいいんじゃない? 先遣隊で首都観光してー、魔王様の居場所を確認。見つけてもすぐに助けないこと! これ厳守ね! あの方絶対すぐに地下に帰ろう言い出すから! 助けるのは後続隊の観光が終わった後!」

「かしこまりました。それでは部隊を編成はエイラにおまかせしますね。私は旅のしおりを作成してきますので」

「了解ー、地上なんてしばらくぶりだから楽しみだなー」

「私もです。地上のご飯はおいしいですからね。YATAIというのを巡ってみたいところです」

 わくわくうきうきと話す二人。断っておくがヴァストールは魔王のお付きであると同時に魔王軍参謀総長であり司令部のトップである。まあ、司令部は一人しかいないのだが。エイラも将軍の立場であり実行部隊のトップである。

 そんな二人による作戦会議は驚くほどのほほんとしている。

 理由は簡単。

 魔王がいないから人間への被害など度外視でいいからだ。

 もしこの場に魔王がいれば地上への進行というだけで大反対するだろう。戦争が目的でないお忍び観光だとしても許可がおりるには一ヶ月以上の時間と緻密な計画が必要とされるだろう。

 自分はひきこもりのくせに心配性な魔王がいない。これだけで驚くほど物事が円滑に進行する。もともと魔族は個々がオーバースペック故人間と殺さないように戦うというのが無理な話なのだ。

 戦争しているのに相手を殺さないことを意識するという時点で矛盾しているのだが、王がそれを望むのだから兵はそれに従うほかない。

 だが、今はその王が敵に捕まってしまうという重要事態。これはもうやるしかない。相手が死のうかなんてお構いなく進まなければならない!

 え、自軍への被害? うーん、考えたことがなかったな! まあ、やられたらそいつの自己責任じゃないかな(適当)

 魔王軍はこれまでにないほど盛り上がっていた。

 いざ、行かん! 地上観光ヘ!





 その頃の魔王。

「おーい、腹が減ったぞ。捕虜への食事はどうなっている!」

「さっき食べただろ」

「足りんぞ! 何だ、パンに水って! 米持って来い米! 俵でな! 後寒いからシチューを所望する! ビーフじゃないぞ、ホワイトなシチューだ! 肉持って来い肉! 久しぶりにハンバーグが食べたい気分だ!」

「うるせえよ! どんだけ食い意地はってんだよ! てか、そんな豪盛なもん食う捕虜がどこにいるんだよ!」

「いやだいやだ、お腹減った! ――くれないならちょっと暴れちゃおうかな」

「な、何をするつもりだ」

「ふふっふー、私は魔王だからな! こんな牢屋消し飛ばすぐらいわけない。平和主義を是とする私だからしないけどやろうと思えばやれちゃうんだからねっ! お腹減ったら機嫌悪くてついうっかりやっちゃうかもしれないなー」

「わ、わかった、上に問い合わせてくるから待ってろ! おとなしく待ってろよ!」

「なる早でな!」

 牢屋の中でKOTATUにくるまって駄々をこねていた。

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