第四話:魔王なんて飾りです。
どうも、魔王です。自分は現在久方ぶりの地上にきています。
きていますというか拉致られて監禁されてます。人権侵害も甚だしい。これが王に対する仕打ちか。いや、まあ、彼ら人間にとって魔族は人族扱いしていないようなので扱いなんて家畜と大差ないのだろうが。
尋常じゃない爆発を受けて驚いてる身体が動かないうちに拘束、睡眠薬による素早い捕獲。
どうやら話の通じない世紀末の民と思っていたが、どうやら考える脳はあったらしく、最初から自分をどうにかしたかったらしい。
しかし……捕獲したとしてもこの鉄の首輪やら腕輪やら拘束具というのは人間に対して使うものであって魔族に対する処置としては正しくないと客観的に意見したいところだ。まあ……しっかり猿ぐつわまで噛まされてしまっては喋ることもままならない。
どうせ、このまま好き勝手するんだろう。そうまるでエロ同人のように!
彼らが魔王をどういう風に捉えているかわからないのでこちらとしてもどの程度の対処をしていいのかわからない。もしかしたら平和的な和解が可能……なんてことは万が一にもないだろう。
あくまでこの無力そうな魔王はこれからの交渉を円滑に進めるための人質……または魔族、人族双方に対する見せしめと言ったところだろうか。それならもう逃げてしまえばいいのだが、帰るべき家がすでに人族にバレている。
あのまま城を攻め落とした、という可能性は非常に低い。なんたって魔族は少数精鋭。その中で一番弱いのは恥ずかしながら魔王である自分だろう。
つまり城に残った魔族たちにとって弱点である魔王は既に敵の手中。きっと、彼らはこう考えるだろう。
「これでうるさいのがいないから心置きなく戦える」
うん、違いない。むしろいないことにすら気づかないかもしれない。なんて思いやりのない仲間たちだろう。
そんな頼もしい仲間たちに自分という歯止めがなければきっと地上に進撃するだろう。そこにはきっと、自分を助けようなんて考えはこれっぽっちもなくて、ただただ日頃の鬱憤であったり人間憎しだろう。
しかも、恐ろしいことに一度攻勢にでたら魔族に負ける要素なんて皆無なのが困りどころだ。人族と魔族の圧倒的なポテンシャル差も前にはちょっとやそっとの兵器などゴミみたいなもんだ。
そうなった時にはじめて自分に人質としての価値が見出されるだろう。魔王がどうなってもいいのか、と脅しに使うかもしれない。既に魔王は酷い拷問を受けていると騙ってみるのもいいだろう。
それで魔族たちの足が止まればいいな、と心から思う。もう彼らに自分たちに王に対する愛があったことに感動して涙が出るまである。
決して、そんな事はないと分かっているけども!
彼らは魔王を信じている。その信頼に応えたことは悲しいことにあまりないがそれでも彼らは知っている。
魔王は、弱い。
並の人間に比べたらそりゃ強いかもしれないがまあ、勇者とかそのへんといい勝負じゃないかな? ぐらい?
それでも彼らは信じている。
魔王の絶対的な頑丈さを。
魔王の圧倒的な耐久性を。
魔王の途方もない不死力を。