第三話:世は正に世紀末
よく「魔王様ってどのぐらい強いんですか?」とか聞いてくるやつがいる。
そのまるで強いことを前提とした質問をしてくることがあるが、考えてみてほしい。君の国の王様は国一番喧嘩強いのか?
別にこちとら征服王でも騎士王でもなければ慢心王でもない。王になったエピソードも大それたものなんて何一つもなく、ただ世襲制なんで王になったにすぎない。
だというのにまるで魔王って一番強い、というどこから生まれたかわからないイメージばかり先行してるようで皆が皆魔王まじつええとか思ってる。
いやいやいや。
こちとら自称頭脳派だから! 自分から戦場に立って切った張ったなどもってのほか。
なんたって、戦いとは戦う前に決してるのだ。それまでに何をするか、それが戦いなのだ、みたいなことを南蛮好きの有名人が言ってたし、面倒くさがりなのでそれを絶賛導入していく。
その為に魔王として一番はじめにしたのが籠城に適した城作りに大量のトラップ作製。自分が戦わなくていい環境作り。きっといつかは戦うことになるかもしれないけれどもなるべく戦わくてよくて、もし、戦う羽目になってもなるべく敵の体力を削り尽くしておきたい。体力満タンの相手と戦うなんて持ってほのか。理想は状態異常マシマシの満身創痍。MP0なら尚良。
だというのに、なんだこの状況は。
相手体力満タン、魔物倒して生計立ててる連中が大勢。
こっち頭脳派(笑)の魔王一人。四面楚歌。紅一点。
なんだ、今からやりたい放題か。嬲られるのか。くっころか。そうまるで
「エロ同人のように!」
人生ハードモードってこういうことを言うのだろうか。
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あ、どうも、魔王です。もうあまりの急展開、絶体絶命につい叫んでしまいましたが、元気です。もういきなり叫んだので相手は引き気味ですが十年前と変わりない容姿なので魔王だってすぐバレると思います。つまりやばいです。
「魔王一人でお出ましとは、随分と余裕じゃねえか」
「こいつが、魔王……だと?」
「ああ、十年前の襲撃の時に見た。あの頃から何一つ変わってないから間違いない」
「おい、皆気をつけろ! いきなり魔王様の登場だ!」
説明ありがとうございます。でも、警戒とか別にそんな大層な。
アイヤー、ベツニアブナクナイアルヨ?
「……人間諸君、久方ぶりだな。まあまあ、落ち着いて話あおうじゃないか」
なるべく刺激を与えないように友好的な感じで話しかける。まあ、大体意味をなさないことなんだろうが、やらないよりはマシだろう。
なんたって魔族と人間は容姿から似てるだけあって言葉が通じる種族だ。ちゃんと話し合えば分かり合えないはずがない。
まずこんな地下深くに住む魔族を討伐しにくるメリットが薄いことを説こう。地下資源が欲しいというのなら協力しよう。
彼らとて我々魔族と正面から戦ってただで済むなんて思っていないだろうし、損害はないのがお互いに最善だろう。
大丈夫。きっと大丈夫。そう自分に言い聞かせ交渉へと口を開く。
「我々、魔族は――「ヒャッハー! 魔王だ魔王だー! 汚物は消毒だ~!」
魔王の言葉をかき消すように世紀末を彷彿とさせるモヒカン男が何か黒光りする筒を魔王に向けると同時、勢いよく炎が飛び出てくる。
それを合図と、大穴の上で待機していた人間たちがそれぞれ唸り声を上げながら飛び降りてくる。
ああ、ダメだ。やっぱりこの野蛮民族に言葉は通じないらしい。