第二話:あなた、怠惰ですね?
人の何が恐ろしいかと話せばやはりその技術力だろう。中でも爆発物を作り出した連中は気が狂ってる。
なんだあの壊す事に特化しすぎて他に使いみちがない代物は。誰得なんだ、アレ。
だがその爆発物によって魔物は簡単に倒せるし、森に住んでいた我々魔族は森ごと焼き払われた。全くもって慈悲も何もあったものではない恐ろしいものだ。
まあ、何より恐ろしいのはその爆発物をためらいもなく使う人間なのだが……それは十年経とうが変わることなくこんな地下でも余すこと無く使用するらしい。
最下層の天井を貫く威力を持つ爆発物を持って城への道を強制的に作り上げる。
「わ、わ……げほっ…‥ぐぬぬ」
「大丈夫ですか?」
「いや、一ヶ月ぐらい喋ってなかったから喉の調子がよくなくて。それで、なんだった? もう一回言ってくれるか?」
「はい、今現在我が城の屋根に続々と人間たちが降下しております。このままでは城内に侵入されるのも時間の問題かと」
「侵入されても問題ないだろう。私が作った仕掛けは人間たちが突破できるような代物ではない。あいつらの爆弾、と言ったか。それを持ってしても結界に傷一つつけられんだろう」
「確かにそうですが強力な仕掛けがあるのは一階フロアでして人間たちが侵入してくるであろうと予想されるのは屋根から近い三階フロアは気持ち程度の備えしか……」
「……何で? 私超神経質に全フロアに仕掛け設置したと思うんだけど」
「魔王様自ら解除したじゃないですか。邪魔だからって」
「…………」
いや、ない? 最初は凄い内装とか気合いれる時って。でも、何年もするうちにそんな気合いれなくていっかってなるやん。
第一、人間相手に作った仕掛けなのに当の人間が何年もこなかったら邪魔なだけじゃん?
「なるほど、理解した。つまり、このままだと侵入されてしまう上に侵入された際の対処もままならないので私自ら外に出てあいつらと一戦交えてこいとそういうわけか」
「はい」
一言。このメイド服に身を包んで愛らしい格好からは想像もできないほど冷たい表情に冷めきった声で言い切ったよ、このメイド。
名をヴァストール。魔王の世話係として片時も離れずこの地下への逃亡生活の折も眉一つ動かさず自分の仕事を黙々とこなす鉄壁メイド。彼女には血も涙もないのか。
「いや、無理だって。私は現在進行系で忙しいんだ。世の中では時事ネタはよくないとか言うけど実際イベントなんてどこかのが終わったと思ったら別のところで始まったりもうイベント終わったら次のイベントって際限なく繰り返してるところもあるんだから手が離せるわけがないんだよ。要約すれば冬イベが忙しい!」
こうして0話に戻るわけである。
「しかし、魔王様、その怠惰ぶりがこうして今現在の危機的状況を招いているわけで。その責任が誰を負うかと問われればやはり魔王様以外にはいないわけで」
「なんだ、なぜ肩を掴む。責任? そんなの知らないね。というか私魔王になるって認めてないし! 勝手に父上隠居しただけだし! ――なぜ引きずる? うわ、おい、よせ、やめろ。魔王を投げるな!」
魔族は、同じような見た目をした人間と比べた場合身体能力が圧倒的に勝っている。ヴァストールのような女性の細腕でも50kgない魔王を投げ飛ばすぐらい容易なのだ。
また魔族は魔術適正が非常に高い。知能レベルは人間と大差なくとも素質の点において魔術を片手間に使う。それは最優のメイドであるヴァストールが例に漏れるわけ無く、魔王を上に向かって投げつつ天井にちょうど魔王一人が通れるくらいの穴を開け、魔王が通り過ぎたら直すという器用な真似を可能とする。
結果、魔王は屋根の上にたむろする数十人の中に放り投げだされるはめとなったのである。