第一話:野蛮で怖い。それが人間。
人間が地下深くこの楽園にまで足を踏み入れてくるなんて夢にも思わなかった――なんて楽観的な発想はしたくてもできなかった。
なんたって自己愛=人間と言っても過言じゃない連中だ。自分たちの生存の為にならそれ以外はいくらでも犠牲にするだろう。
それに地下でひきこもってる間でも自然と上で人間がせっせと魔物狩りしてるのは伝わってくるわけで……そうなれば自然と最下層にやってくるのは時間の問題。
迎え撃つ、なんてことは考えない。というかしたくない。やつら人間が魔王含め魔族にとってトラウマという共通認識が変わるわけもなく、できることなら一生会いたくない。
しかし、最下層までくるまでまだ時間があるし大丈夫、大丈夫。なんて先送りにしていたら過去の二の舞い。しかも、今度は逃げ道なし。
そんなわけで若輩魔王が考えたのは絶対防御の構え。何が何でも自分のところまでこさせないし会いたくないという思いから作ったのが今馬鹿面して人間たちが眺めているこの城だ。
堅い岩肌を削って作り上げた城の中は迷路状になっており構造を把握していないと一生迷い続ける上に魔族が魔族たる所以とも言える魔術の限りを尽くしている。
結界二十四層、魔力炉三器、猟犬がわりの魔物数十体、無数のトラップに、廊下の一部は異界化させている空間もある。
通れるものなら通ってみろ!
当然の如く、人間どもは踵を返してとっとと帰っていたようだ。それもそうだろう。外見も怪しさ全開でとても足を踏み入れたいなんて思わない代物と化している。
やれやれ、ここまでしなくてもよかったと拍子抜けしたいところだが、あれはあくまで先遣隊。
魔族が生きているという情報を手に入れた人間の次の行動なんて決まっている。
朝起きたら顔を洗うように、風呂に入ったら髪を洗うように、居酒屋で「とりあえず生」って注文するぐらい当たり前のことだ。
魔族を見たら滅ぼす。首おいてけの精神で今までやってきたのが人間なのだから。
だから、あいつらが諦めないのも分かっていた。どんなに困難の道のりであろうとそこに魔族がいるなら討ち滅ぼさんと攻めてくるだろう。
その為の備え。その為の籠城の構え。何度でも来るがいい。何度でも返り討ちにしてやる。
魔王は戦わないけどね!
そう思っていたのに! 魔王である自分が戦うなんて恐ろしいことしなくていいように策を弄したというのに!
これだから脳筋は嫌いだ。何でも力で解決できると本気で思ってやがる。
何で、地下洞窟の天井破って城の真上から振ってくるんだよ。正面から来い、正面から。