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魔王は働きたくない  作者: 宮島闇継
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第九話:初めての逃避行




「あー、マジ世界滅びないかなー。こうタイミングよくゲージ押したらぱかっと星が割ったり、軽い気持ちで、んちゃ♪ とか言って割ったりしてくれるような勇者現れないかなー。そのへん、どう思うよ、アイン君」

「あ、はい、そうですね。いいんじゃないですか」

「んー、全然気持ちが入ってないー。しかもなんで、敬語ー? ところでまだつかないのー?」

「ああ……もう少しだ。もう少しだ思う」

 魔王とは傍若無人の象徴であると遥か昔、古きよき伝承に記されていた。今アインは身をもってそれを体感しているところである。

 まさか魔王に拉致される人間第一号に自分が選ばれるなんて夢にも思っていなかった。

 しかも、その拉致理由が観光案内ガイドのためだと言う。

 魔王いわく、地下は嫌いではないが地上の食事は地下と比べ物にならないほど美味しいし手がこんでいる。これを堪能しない手はない。

 しかし、魔王には土地勘がないし、人間たちの使う通貨も持ち合わせていなければ交渉なんて以ての外。アインと話せているのだって、彼が貧弱イケメンメガネという危険性のなさそうな見た目をしているからであってちょっと強面のおっさんとかだったらまず目を合わせられない。

 そんな理由で選ばれたアインは絶賛魔王の荷物として天翔る魔王に首根っこ掴まれてる状態だ。高さは雲の中にいるぐらいの高さ。うん、落ちたら即死間違い無し。

 そんなわけで強制的に魔王のガイドを仰せつかることとなったアインは今魔王の求める美味しい料理の在り処を示す役割を順当にこなしている。

 目は死んでいるが。

「ああ、なぜこのようなことに……」

 魔王と話そうなんて考えたのが間違いないのだ。いや、そもそも魔王を人間を囚えておくような牢獄で囚えておけるなんて発想がおかしいのだ。

 あの時魔王はまるで何事もなかったように鎖を無力化し、分厚い鉄の壁に綺麗な風穴をあけて牢獄から脱走した。

 もののついでとアインを拉致したわけだが、特に彼女に害意というものはない。魔王であるがゆえの奔放さがたまたまアインに向けられたにすぎない。

 若くして王国軍参謀にまで上り詰めたが、そのあくなき探究心がゆえに魔王に近づきすぎた結果がこの顛末である。仮に生きて帰れたとしてももう自分に居場所などないだろう。

 王国すら他国から魔王を取り逃がした責任を追求されるに違いない。むしろ、生きて帰ったら自分の首が飛ぶんじゃないか?

「……これが進むも地獄、戻るも地獄というやつか」

「何を言うか。これから向かう先には美味しい料理があるんだろー? 進む先は天国に違いないね!」

 久々の自由なのか魔王はさっきからやたらテンションが高い。もうなんなら鼻歌歌ってるぐらいにテンション高い。口には出せないが絶望しているアインからしたらものすごくうざい。

「これから行く東の国はどんな国なの? 魚料理が多いとさっき言ってたけども」

「ああ。東の国、通称【和国】は海が近いのもあり水産業が盛んで生魚を使った料理が多い珍しい国だ。また米に酢を混ぜた酢飯と一緒に魚の刺し身を食べるSUSIなる食事が美味とされていたり、王国とは全く違った装束が多い。魔王が使われていたKOTATSUももとは和国で生まれたものと聞いているな」

「マジか。和国すげえな、KOTATSUはもう私も重宝しているお気に入りの品だ! 暖も取れてものも収納できて、何なら中で着替えまでできる便利品だ。ただ中にいすぎるとなぜか風邪を引きやすい。呪いのアイテムなのか?」

「さあな……」

 この能天気なのが魔王。意味不明な能力を目にしていても喋っている分には世間知らずのお嬢様にしか見えないから不思議だ。

「しかし、魔王。このまま和国に行っては魔王軍の方々と合流できないがよろしいのか?」

「んー、いいんじゃない? きっと私がいなくても皆好き勝手に何とかすると思うよー。――最悪、王国が滅ぶぐらいじゃない?」

 息を飲む。

 あっけらかんと自国の破滅を告げられたのだ。

「あれ、驚いてるの? 別に不思議じゃないよー。魔王軍に正面から喧嘩売って私を拉致ったんだからー魔王軍はやってくるさ。皆わりかし好き勝手に観光しにくる程度だと思うけどー、まあ、下手に機嫌悪くさせたら滅ぼされるよねー」

 淡々と魔王は語る。

「適当に旅の人だと思ってくれてれば多分安全。魔族ってやっぱり人間と見た目そんな変わらない子ばっかだしね。でも、勘のいい人が魔族って気づいて手を出しちゃったら……まあ、普通正当防衛するよね。殺されるのは嫌なわけだし。正当防衛しない結果を私たちは学んでるしね」

 目を細める魔王が何を考えているかわからない。だが、アインはその意味を知っている。

 魔族は一度滅びかけている。

 何もしないから死んでいった仲間を魔王は覚えている。

「私としてはどちらでもいい。王国が滅びようが滅びまいが関係ないし興味もない。だからそのへんは王国側に任せるのが最良の判断だと思うんだ。ねえ、そう思わない?」

「……判断しかねる」

「――あは、今の私魔王っぽくなかったかな? いやー、魔王っぽい雰囲気とかマジ疲れるわーないわー」

 一瞬で魔王の雰囲気が柔らかいものに変わり、また鼻歌交じりにアインの知らない歌を口ずさむ。


 ああ、やはり彼女は魔王なんだ。アインはそう痛感させられるのだ。



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