表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王は働きたくない  作者: 宮島闇継
10/14

第七話:魔王クエスト




 魔王が捕らえられて一週間が経った。人間側から見て戦況は控えめに言っても敗戦濃厚であった。

 先遣隊として送った精鋭をあっさりと壊滅させられ、そこから打つ手がなく手をこまねき、魔王に拷問詰問しようにも捕らえられてるはずの魔王に神経をすり減らされる始末。しかも、捕虜と思えない食生活を求めてくる。

 ありがたいことに魔王軍の方から大きな動きはなく、体勢を立て直すだけの時間は十分に与えられたので幾度となく会議し作戦を考えることができたのだが、結局のところ攻め入るという選択肢を出せずにいる。

 一番の理由は多勢による進行によるリスクが大きすぎるということ。謎の極太の熱線による広範囲に対する即死攻撃がある以上、隊列を組んで挑めば開戦前に先遣隊の二の舞いとなるだろう。

 国としてこれ以上軍事力が削られるのは避けなければならない。そうなれば、やはり過去のように魔王を倒さんという勇者を集う事になるわけだが……

「なぜ、誰一人としてこないのだ!?」

 会議室に叫びに近い怒声が響く。もう幾度となく繰り返されたやりとりだろう。

「ですから、条件が悪すぎるのですよ」

「魔を討ち滅ぼすという名誉の前に条件など関係ないだろう!?」

 駄目だ、こいつ。

 若き参謀アインは老害とかしている上司にため息をはき、勇者募集として街に出しているチラシを見やる。


 募集条件

 ・過去魔族、魔物の討伐経験があるもの。

 ・歳15際以上男女問わず。

 任務内容

 ・地下魔族の領域に存在する謎の熱線の発生源の排除、もしくは持ち帰る。

 報酬

 ・成功度合いに応じて相談。


 こんなもの誰が志願するのだろう。

 ただでさえ、先遣部隊の全滅は街に伝わっているのだ。

 とにかく、やばい。もう何がやばいかわからないけどやばい。もう一瞬で先遣隊はやられたらしいからやばい。それなのに、どこから飛んできたからすらわからないらしいからやばい。

 なんてのが街の酒場に伝わっているらしい情報だ。ふんわりしすぎててこっちの頭がやばくなりそうだが、実際のところ間違いがないからやばい。

 実際生き残りの支援隊もはるか遠くから飛んできた極太の光に先遣隊が焼き払われた、ということしか分かっていないのだから。

 こういうときこそ魔王から聞き出せればいいのだが、獄卒から伝わってくるのは、やれ肉が食いたい。カレーが食べたい。ラーメン作れ、なんていう食べ物の要求ばかり。一体牢屋では何が起こっているんだ。

 とにかく、こんな募集でいざ、魔王軍に挑もうなんて死にたがりがいるはずがない。特に若者なんて平和な時代が長くて魔王軍の脅威というものを理解していない。自分ですら過去の歴史からその危険性を知っている程度で今回目の当たりにしなければおとぎ話の与太話と思っていた。

 やはり、一度魔王と話さなければ、いけないのだろう。上に任せてたままでは何も進展しないだろう。魔王軍もいつまでおとなしくしているかわからないのだから……

 魔王。

 きっと、凄く恐ろしい存在なのだろう。女性であると聞いているがきっと筋骨隆々で腕なんて自分の頭ぐらいあるだろうし、頭を片手で握りつぶすぐらい容易いんだろう。角とか、翼とか、尻尾とかもう凄いことになっているんだろう。

 幼少の頃読んだ勇者の絵本に登場する魔王のようにまるで悪鬼のような存在なんだろう。

「ああ、胃が痛い」




「ん、なんだ今度の看守は随分と身綺麗だなー」

 牢屋の中を完全に自分空間として寛ぐ見目麗しい少女が読んでいた本からアインへと視線をやり、にやりと笑った。

「お前が……魔王、なのか?」

「いかにもいかにも。何代目……かはもう忘れたが今代の魔王は、私だよ」

「…………」

「ふむ、今度の看守様はイケメンだけど寡黙なんだね。いいよ、静かで」

 牢屋の中で寝転がっている魔王を名乗る少女は興味がなくなったのか、ごろんと仰向けに転がりまた本を読み始める。見たことないタイトルの本だが一体どこから仕入れてきたのか。

 それよりも、この少女が本当に魔王なのか? 歳にして14、5といったところだろう。魔族は長寿と聞くので見た目の年齢で判断できるものではないが、少なくともこの少女から危険性は少しも感じられない。むしろ超綺麗。このまま育てば傾国の美女となろうこと間違い無しの美貌に細く白い身体。どこからどう見ても人間にしか見えないが魔族特有の金色の瞳が唯一その存在を魔族であることを主張している。

「自分は王国軍参謀を務めるアインだ。看守ではない」

「へえ、軍の参謀さん。若いそうなのに偉い人なんだ。エリートってやつだ。――っぺ」

 魔王は地面につばを吐き出した!

 人懐っこい笑顔から信じられない行動にアインは固まってしまった!

「エリートっていうのは私が一番嫌いなやつだ! 真面目に努力して勉強して国の為に尽くす? ニートの私へのあてつけか? くそう、人間様め、ついに戦略を変えてきたか!」

 アインは魔王の精神にダメージを与えた!

 アインは動揺していて動けない!

「しかも、イケメン眼鏡ときたもんだ! こういうやつは酒も女もタバコも博打もやらねえ、つまらんやつに違いない! つまらんくせに優秀で家柄もよかったりしてトントン拍子に出世しやがるに決まってる! ああ、つまらん!」

 魔王は激昂しているようだ!

 アインは深呼吸を使った!

 動揺がましになった! 

「確かに、自分はつまらん男だろう。お前の言うように酒も女もタバコも博打もしない。考え方も硬いようで現状、お前率いる魔王軍に対する処置が思いつかずにいる。それで、お前に話を聞きに来たのだ」

「……ほお」

 魔王は目を細めた!

 魔王の機嫌がよくなった!

「イケメン眼鏡のエリート様が私に話を聞きたい? 高慢な人間様にしては随分と謙虚な姿勢だねぇ。――面白い」

 魔王はKOTATSUを解除した!

 魔王はアインに近づいた!

「何が聞きたい? 話してみるといい」


 魔王は、楽しそうにそう言った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ