死んだ幼なじみからメールが来ました④
夕暮れどきとは言えまだ外は未だ明るく道路を照らす。
三間先とは言え、田舎ではそれを一足でとはいかない。間に畑があれば広い敷地だってある。だが、今ではそれも大した距離ではないように感じる。
子供の頃にサエの家に遊びに行っていた時は小さい自転車のかごに山ほど遊び道具を積み込み、家に向かっていたものである。
家を出て一分ほどの全力疾走を経てようやくサエの家の玄関に到着する。門扉には「冴島」の表札がある。庭はサエの祖母が趣味で作っているという美しい庭園があるが今はそれに構ってはいられない。
あの火事の後、新しくなっている家のチャイムを乱暴におしつけた。
「はーい」
男の声とともに玄関を開け、出迎えてくれたの若い男性の顔を俺もよく知っている。
「あれ、トオル兄ちゃんやん」
「ゆ、ユウトか……」
冴島優人。名前の通りの優しいおっとりとした性格で、サエよりも十歳離れた弟である。年の離れた子なため、俺もよく弟分として可愛がっていた影響からか、俺のことも昔からトオル兄ちゃんと呼んでいる。
「どしたん?また醤油切れたか?」
「い、いや違う……」
なにせ四百メートルほどを全力で走ってきたのだ。俺も年はとっくに三十路を越していて息が上がっている。
「サエに……会いたいんだが……」
一秒ほど優人の顔が固まるが、またすぐに元の優しい笑顔になって
「いいよ、こっちきいよ」
そう言って先を歩く優人を俺は必死に追いかけて、タバコの臭いの立ち込める部屋の中に飛び込んでいく。
優人とサエの父、冴島惟継は昔から非常な愛煙家であったが、サエが死んでからはストレスからか余計にタバコを吸うようになった。今もまだ玄関を通り過ぎただけだというのに咳き込みそうになる。
それにしてもやはりこれまでの十五年間というのはただの悪夢だったというのか、サエは……実は死んでなどいなくて部屋に行けばまたいつものようにサエは「よっ!トオル、遊ぼうよ」と声をかけてくれるのではないだろうか。
という、そんな淡い期待は優人がとある鏡台の前に俺を案内したことでもろくも崩れ去った。
「姉ちゃん、今日はトオル兄ちゃんが来てくれたで」
そう言ってまるでトライアングルのようにチーンと響くお鈴の音。そして前にあるのは馬鹿でかい仏壇と、十五年前、町斎場で見たのと同じ笑顔のサエの顔であった。
「……」
わかっていたはずなのにまるで心だけが十五年前に戻ったかのように喪失感と虚無感に襲われる。さっきまで話していたサエが今は仏壇となってしまっている。
(何が一体どうなっているんだ……)
ますます混乱する俺に優人が声をかけた。
「命日前に兄ちゃんが来てくれて姉ちゃん喜んどるわきっと……」
優人のその言葉で俺は思い出す。そうだ、今日の日付は六月の二日。そしてサエが亡くなったのはちょうど十五年前の二日の夜のことであった。
(さっきまでサエとしゃべっていたのは全部夢だったのか……?)
と、考えていると優人が何かを察したかそうじゃなくてか、話題を変える。
「そうそう、兄ちゃん。今日はなんかしし座流星群……とかいうのが最接近するんやってよ?」
俺がサエの仏壇を前にして感極まって言葉を失っていると思い、彼なりに気遣っているのかそのような話題を出す優人。
「流星群……」
「今日は天気がええし、このあたり田舎やから家からでも見えるかもしれんよ」
正直今はそれどころではないのだが、優人の気遣いには感動した。本当にいいやつである。
「ありがとな、優人」
お礼を言って仏壇の鈴を鳴らして黙礼し、ゆっくりと帰路に着く。
家に戻ると、先ほど投げ出したスマホが座布団の上に転がっており、画面をつけると不在着信(2)の文字がある。
どちらもサエからのもので、あちらから電話をかけることもできるのかと思いつつ、通話ボタンを押す。
「もしもし」
「もしもしトオル!あんたどういうつもりなんほんとにもー!」
電話の向こうから非常に不機嫌そうな、先ほど仏壇に飾られていた女の声がする。
「いや、すまん」
「さっきからいきなり電話かけてくるわいきなり泣き出すわ、かと思えば生きてたのかとか言い出すわ、挙句の果てに電話を切ってどこかに行ってしまうわ。ったく二十文字以内で説明しやがれアホウ!」
ひとまず今の状況を二十文字以内で説明するというのはどう考えても無理があるので少々言葉に詰まってしまが、そんな時なぜか優人の一言を思い出した。
「命日前に兄ちゃんが来てくれて姉ちゃん喜んどるわきっと……」




