死んだ幼なじみからメールが来ました
第一章・死んだ幼なじみからメールが来ました。
三回目の携帯アラームの音が鳴る。
鳴っているのはパッヘルベルのカノン。最初は好きで設定していたはずのこの曲もアラームに使うようになってからは嫌いになってきた。いい曲なんだが。
「仕事かぁ……」
行きたくねぇなぁと思いつつも体の方は勝手にいつものカッターシャツに腕を通している。もはやこの動きも慣れっこだ。
階段を降りたところで一回あくびをする。今朝はずいぶんと暖かい。
「起きたようだの、透」
俺の住居は階段を降りると突然玄関が出現する。そして玄関の前で腰を下ろしている麦わら帽子をかぶった老婆が話しかけてきた。いや、まぁこの老婆こそ母なんだが。
「ガーデニングか?」
「があでぃ……?」
話しかけてからしまったと思った。母を含めたこの世代は横文字を好まない。
「えーっと草とりに行くのか?」
「あぁーも、久し振りに晴れたかんねぇ」
そう言って土間の玄関を踏み出す母。もう後期高齢者なのだから自重して欲しいのだが、どうしても畑の管理だけはやめられないらしく、耳を貸す気配がない。もっともその貸す耳もずいぶんと遠くなって、背中は小さくなったように感じる。
先ほど俺が降りてきた階段で去年俺の母絹江は転倒し、都内に出ていた俺もこの事態にこうして田舎へと帰り、母の様子を見ている。こうして独身の身軽さを遺憾無く発揮して母の様子を見ているが、病院から戻ってきた母はケロっとした様子でこのように、畑を我が物顔で占領している雑草に鉄槌を下しているのだ。
「この時期の雑草は早いうち抜いとかな面倒だけな」
(ほんと、人の心配も知らないで……)
だが元気なのは良いことだ。存分に草でもなんでも抜かせておけばいい。
「あんたもやで、透」
っと、ここで絹江は途端に矛先を庭の雑草たちから俺へと向けた。
「な、なんが?」
「あんたもええ人おらんのかい?」
俺の表情が曇った……と、思う。ていうか絹江から見ればそう見えただろう。
「な、なんだ!急に……」
「あんたもいつまでも、サエちゃのことひきづっとらんと。確かにあの子は気立ても良くて、明るい子やってんけど……」
「母ちゃんよ……」
声をかけてから言おうとしたことをキャンセルする。絹江は年を取ってから特に昔の話をよくするようになった。昨日食べた食事は思い出せないというのに。
絹江と話してる間に着替えが終わる。俺は外に出て湿気のこもった息を吸う。今日は久々の晴天で気分もいい。母としゃべって気分を害す必要はないわけだ。朝ごはんは……コンビニででも買うとしよう。
傷んだ芝の庭を突っ切り、田舎暮らしには必須の車に乗る。
車に乗り込んだ時に少しだけポケットに入れたスマホが震えた気がした。
(ん、メールか?)
だが車の運転先にに乗った状態でポケットのスマホを取るのが面倒なのと、さっさと家を出たいという二つの思いでそのときはスマホをとることはなかった。
そのときは。




