1/1
夏の夜に訪れたモノ
「ねぇ、私が死んだらどうする?」
ある夏の日の夜、いつものように俺はベランダに立って彼女のナツと電話をしていた。
彼女はいつもの様に笑いながらそう聞いてきた。
「何言ってんの、そりゃ悲しいよ」
伸びてきた前髪を指先でいじりながら俺は答えた。
今日も暑い夜だなぁと思った。
「ケイちゃんはさ、私が死んだら泣く?」
電話の向こうで彼女がガラス戸を開ける音がした。彼女もベランダに出たのだろう。
「そりゃもちろん」
手すりに腕を乗せ夜の街を見た。灯りがポツポツと残っていた。
「何、さっきからどうしたの?」
なかなか次の言葉返ってこない彼女に俺は言葉をかけた。
「ううん、なんでもないの」
彼女は笑って言った。
彼女は屈託ない笑顔がとても可愛い子だった。
「ケイちゃん…」
彼女が俺の名前を呼んだ直後だった。
ドンッ
電話の向こうから鈍い音が聞こえた。
「ナツ?ナツ?」
さっきとは向こうから聞こえてくる状況が全く違う。
遠くから聞こえてくる人の声、足音。
ナツは、死んだ。
あの蒸し暑い日の夜のことだった。