夏の夜
これは、誰もが体験し得る恐怖です。
最近、俺はろくに寝られない日々を過ごしている。
原因はと言うと「奴」が俺の眠りを妨げるからだ。
恐らく今夜も来るだろう。
ほら……また「奴」が来た。
これで何度目だ?
寝る直前になると必ず枕元に現れ、俺の眠りを妨げる。
いい加減にしてくれ!
俺が何をしたって言うんだ!
毛布にくるまりやり過ごそうとしても、夏の暑さで毛布という名の要塞から出るしかない。
俺はバ◯サン焚かれたGかっての!
かといって、毛布から出れば「奴」が待ち構えている。
布一枚とはいえ、無いと有るとじゃ安心感がまるで違う。
だが「奴」は毛布に籠城出来る冬には現れない。
俺が長時間の籠城が出来ない夏に限って現れ、俺が城から出てくるのを今か今かと待ち構えている。
「奴」が現れるこの季節、俺はろくに眠れなくなる。
毎年毎年この季節になると俺の枕元に現れ、俺が隙を見せる瞬間を狙っているからだ。
前に油断していた時、「奴」に一撃入れられてしまった。
俺は余りの苦しみに耐え兼ね、自らの身体を痛め付ける事で俺を苛む苦痛を誤魔化すしかなかった。
だが「奴」の攻撃は一過性の物ではなく、暫く経つとまた傷口が…。
もうやめてくれ…。
俺の何が気に入らないんだ!
話があるなら聞く、だから、だからもう来ないでくれ!
そんな俺の願いを嘲笑うかのように、今晩も「奴」は俺の枕元に現れた。
「奴」は現れる際、ある音と共にやって来る。
あの音が此方に近づいてくる。
もう我慢の限界だった。
連日の睡眠不足によるストレスで些細なミスが増え、それにより更にストレスが溜まる。
ストレスで些細な音にも反応してしまい、眠れなくなる。
酷い悪循環に陥っていた。
俺は怒りに任せて「奴」が居るであろう辺りめがけ、我武者羅に襲いかかった。
暫く暴れて、少し気分が落ち着いた。
耳を澄ます、あの音が聞こえない。
俺は「奴」を倒せたのか?
やったぞ……!
これで漸く静かに眠れる。
明日はいつもより早く出なければならない。
本来ならもっと早く寝なければならなかったが、「奴」のせいで眠れなかった。
だが、そんな日々も終わった。
俺は平穏を取り戻せた事が何より嬉しかった。
久しぶりにいい夢が見られそうだ。
俺は穏やかな気持ちで横になった。
目を瞑ると、すぐに眠気がやってきた。
今日は「奴」が居なくなった為、グッスリ眠れるだろう。
俺はそう確信し、夢の世界へ行こうとしていた。
過去形なのは、あの音が聞こえてしまったからだ。
嘘だ、そんな訳がない!
「奴」はもう消えた、俺が倒した筈なんだ!
だが、現実は非情だった。
あの音はどんどん此方に近づいてくる。
聞きたくないのに、俺の耳はしっかりと「奴」が発する音を捕らえてしまう。
「プーーーーーーーーン」
悪夢はまだ続くらしい。
誰か、誰か俺をこの悪夢から解放してくれ……!
これが、作者が体験した最も恐ろしい話です。