第四話 迷いと決意
夜、屋敷へと帰り父親と共に、与えられている部屋へと戻ったルークは嬉しいような困惑したような、そんな表情を浮かべていた。
両親のようになるのが夢であったルークにとって、自分が将来仕えるであろう相手がセレナであったということは喜ばしいことであった。
彼が彼女の人柄に対してすでに惹かれつつあったという面もあっただろうし、それ以外の理由もあったのかもしれない。
だが、それと同時に自分とセレナの関係性を見直さなければならないであろうという面が彼を迷わせていた。
自分と彼女の間にある身分の差は、まだ幼いルークにもある程度は理解できた。
そして、今までの態度は少なくとも主人と使用人という間ではふさわしくないものであるということも理解できていた。
がしかし、彼は今までの関係を、短いとはいえ、セレナと築いてきた関係を壊したくはなかった。
そのことが、彼をひどく迷わせていたのだ。
もし、セレナが初めてできた友達でなければルークもここまで迷うことはなかったのかもしれない。
がしかし、セレナはルークにとって正真正銘、初めてできた友達であり、さらに言えば、どちらかというと、守ってあげたいと思うようなそんな少女であった。
そんな子との関係を壊したくないという彼の心を誰が責めることができようか。
さて、そんなルークの迷っている様子は当然同室にいる彼の両親には明らかであった。
子供の隠し事なんてものは大人には大抵お見通しなものだ。
悩んでいる彼に対して二人は心配そうに話しかけてくる。
それに対し、ルークは始めのうちはごまかそうとしていた。
きっと自分ひとりの力で解決したいという自立心、いや男心が働いたのだろう。
がしかし、結局は親の追及をごまかしきれなくなり、悩んでいたことを打ち明ける事となった。
とある女の子とついこの間仲良くなったこと。
ここ数日は一緒にお昼ご飯を食べるほどに親しくなったということ。
そして、その女の子がハルカス家のご息女であったということ。
それらのことを事細かにルークが話していく。
ルークのその言葉を聴き、両親は共に悩み、色々と話し合った後で、父親のほうがルークに話しかける。
「ルーク。
お前はどこまで彼女のことを知ってるんだ?」
「えっと……」
「多分あんまり詳しくは知らないだろう?
父さんもそこまで詳しくは知らないが、ある程度ならば知っている。
『ハルカス家のお嬢様』は武道も魔法も高いレベルでこなし、勉学においてもすばらしい成績をたたき出しているそうだ。
こんなことが町の商人やなんかの間でも、結構な噂になっていて、話題に上ることもままあるほどだ。
「ハルカス家のお嬢様は文武を高いレベルで両立ているそうだ。将来はきっと『勇者』として活躍することだろう」
みたいにね。
推測だが貴族でなくてもそうなんだから、貴族の間ではきっともっと話題に上がっていると思う。
彼女はまだお前と同い年なのにだ。
それがどういうことか分かるかい?」
「ごめんなさい」
「いや、謝ることじゃないよ。
私たちみたいな一般人には到底想像もつかないことなんだから。
父さんにだって正直分からない。
でも、強いて言うならきっと、私たちには想像も付かないほどの重圧が彼女にはかかってると思うんだ。
つまり彼女は今、すごく疲れているはずだよ」
「疲れてるの?」
「あぁ、そうだ。
身体だけじゃなくて、心が疲れてるんだよ。
母さんの話じゃ、普段から食事を取るのもちょうど今頃なんだそうだ。
そんなんじゃ休むことすらままならないだろうね。
体の疲れならきっと短い休みの時間でも取れると思う。
でも、きっとそれで手一杯だ。
彼女がいかにに優れているとしても、年齢的にはまだ若い子供なんだから。
きっと心のどこかでは助けを、支えになってくれる人を求めているんじゃないかな」
「支えになってくれる人?」
「そうだ。
全部理解してくれるのは無理だとしても、ただ愚痴を聞いてくれるというだけでもいいんだ。
そして、父さん達の知る限り彼女にそういう人はいない。
噂好きの使用人の話なんだ。
これは信頼してくれていい。
さて、ここまで言えば賢いお前には何が言いたいかわかるな?」
「うん!」
「よしよし、良い子だ」
ルークの頭を撫でながら父親がそういう。
「父さん達からはこれで終わりだ。
父さんはお前がどう決断したとしても、お前を支持する。
だから、絶対に後悔するような選択はするんじゃないぞ」
「わかった」
息子が何を望んでいるのかをしっかりと分かった上での父親の背中を押すような言葉。
その言葉に、素直に背中を押されたルークは迷いも吹っ切れた様子で晴れ晴れとしている。
「よし、それじゃあそろそろ寝る時間だな。
いっぱい考えたから疲れただろう?
今日はとりあえず眠りなさい。
明日はまた忙しくなるからな」
「は~い。
おやすみなさい」
「おやすみ、ルーク。
お前の明日が、今日よりもより良い明日になることを祈っているよ」
こうしてルークは夢の中へと旅立っていったのだった。