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第一話 彼女との出会い

 とある国の首都にある王城から、そう遠く離れていない一等地。

 その中心に、この都市の中でも城を除けば一、二を争うであろう大きなお屋敷があった。

 屋敷を所有しているのはハルカス家。

 この国の祖である英雄ヴェリアの血を受け継ぎ、過去にはこの国の唯一にして絶対の宗教であるソレイユ教の教皇を輩出したこともある名家である。

 今代の当主にしても教皇ではないが、教会内でも有数の力を得ており、勢いは落ちることはなかった。

 そんなハルカス家の屋敷は広大な敷地を持つが故に使用人も数多く雇われていた。

 ハルカス家は代々貴族絶対主義ではあったものの、別宅もあることから、貴族のみで屋敷のすべてを回せないことは重々承知しており、幾つかの平民出身の使用人が代々この屋敷には仕えていた。


 そんな屋敷のとある春の日の早朝。

 春とはいえ、まだ完全に冬があけたとは言いがたく、朝の早い時刻では手を切るような冷たい風が吹いている。

 そんな時刻でありながら、屋敷の一角で七、八歳程度の幼い子供が井戸からくみ上げたであろう木の桶を持ち、机の雑巾がけを行っていた。

 彼の名はルーク。

 この屋敷に使えている使用人一家の子供であり、黒い髪を持つ幼く、純真そうな少年だ。

 両親ともにこの家に使用人として使えており、彼もその後を継ごうと、まだ幼いながらも両親の後について細かなことながら仕事の手伝いをしていた。

 現在もその一環として机の雑巾がけをしていたのである。

 この家の主人が貴族絶対主義に近い考えを持っているため、基本的に屋内のことは主が起きる前に行うようにされているため、まだ日も空けていないうちからこの屋敷では各所の掃除が行われているのだ。

 朝の早い時間、主一家が起きてくるよりも前は屋敷の日常的に使われている場所を掃除し、起きた後に主の部屋の掃除やベッドメイキングを行ったり、必要なものを買い足しに行ったりする。

 そして、夜が更けてから、掃除や火の始末などを行う。

 この屋敷では姿をできる限り主一家に見せず、存在すらもないかのように仕事をすることが良しとされていたのだ。

 もっとも、そこまで厳しくしては屋敷がまわらなくなることもあるため、昼の間も、ある程度の自由は保障されていたのだが。

 とは言え、朝から晩までほとんど休みをとらずとも働くことができるのはあくまで大人の話であり、さすがに十歳にも満たない子供ができるはずもない。

 この日も、ルークは一生懸命仕事を手伝ってはいたのだが、昼ごろになり、目に見えて疲れてきていた。

 いつものことであるからして、両親も彼が疲れてきているということは分かっており、彼に休みを提案する。


「ルーク、もう疲れただろう?

 そろそろ休憩を取りなさい」

「やだ。

 だって、お父さんたちはまだまだ働くんでしょ?

 僕はお父さんたちみたいに立派な使用人になるのが夢なんだもん。

 こんなことで休んだりしちゃだめなんだよ」


 それに対してルークがこんな風に返すのもいつもどおりの話。

 反抗期というわけではないのだが、一人前としてみてもらいたいという欲求が強いのであろう。

 毎日ではないにしても、週に何度かはこんな風にごねるのが常であり、その後の対応もまた決まりきったものであった。


「だめだ、一度休んできなさい」

「でも……」

「でもじゃないだろ?

 疲れて、その仕事がちゃんとできなかったら意味がないだろ?

 むしろもう一度どこができていないかを探す必要が出てきちゃうんだ。

 仕事を熱心にやるっていうのはとても重要なことだけど、それ以上に重要なこともあるって父さんは教えただろう?」

「……は~い」

「よろしい。

 母さんがお前のためにお弁当を作っておいてくれてるはずだから、厨房に行ってもらってきなさい。

 今はそんな風にしっかりと食事をとることも重要なんだから」

「うん、分かった。

 それじゃあ、行ってくる」

「気をつけてな。

 走ったり大きな音を立てたりするんじゃないぞ?」


 そういって、いつものように息子を送り出した後、父親は仕事を続けていく。

 もっとも、いつものようにとは言うものの、ルークが食事休憩を取る時間というのも徐々にではあるが遅くなってきており、常に息子の体に木を使ってきた彼にはルークの体が成長してきているというのが分かり、父親として誇らしい気持ちになっているようで、先ほどよりも少し上機嫌で、彼は掃除を進めていくのであった。


 一方、ルークのほうは結局いつものように厨房に向かっていった。

 母親は厨房で働いているため、ある程度自由に厨房を使用することができ、いつも昼食を息子のために作ってあげているのだ。

 程なくして、ルークは厨房へとたどり着き、そこで出迎えてくれた母親に出会った。


「あら、ルーク。

 今日もしっかりとパパのお手伝いはできた?」

「うん!

 今日はね、机とか椅子をきれいにしたの」

「そう、えらいわねぇ。

 はい、これが今日のお弁当よ。

 中庭で食べてきなさい。

 あんまり目立つところにいちゃだめよ」

「うん、分かった。

 行ってくる」

「気をつけてね」


 こういって先ほどの父親と同じようにルークを送り出す。


「ルーク君も大きくなったわねぇ。

 私が初めて見た頃はこんなに小さかったのに」

「そうねぇ。

 しかも素直ないい子に育ってうらやましいわ。

 つい昨日の話しなんだけど、うちの息子なんかね……」


 彼が去った後、彼女は他の仕事仲間と共におしゃべりをしながら、料理器具なんかを洗ったりしていく。

 どこの世も女性がおしゃべり好きなのは変わらないのであろう、自分の子供の話なんかをネタに彼女たちは仕事を続けていくのであった。


 さて、ルークはというと、いつものように中庭に出た後、庭の端、建物と木々でほとんど日にも当たらず、植え込み「で隠されていて対面の窓からでは見えないような小さな空間へと向かっていた。

 少し肌寒く感じることがないとは言わないが、両親の言いつけを守るにはぴったりな場所であり、尚且つ、少し秘密基地のようになっていることに少年心を惹かれているのだろう彼はこの場所がなかなかに気に入っていた。

 この場所で食事を取りながら、今日教えてもらったことを思い返したり、明日そのことをどういかそうかなどと一人で考えることが彼の日課であり、楽しみでもあった。

 がしかし、今日に限っては少し違った。

 普段から人はめったに寄り付かず、せいぜい庭師が植え込みを整えたり近くに木の枝を落とすのに来ることが稀にあるくらいなこの場所に小さな先客が、彼よりも小さな先客が今日はいたのだ。

 肩ぐらいで揃えられた綺麗な金色の髪にライトブルーのワンピースを着た小さな少女であろう。

 俯いている為、顔は全く分からないが、体の大きさからして、自分と同年代ぐらいだろうとルークには分かった。

 彼女はその小さな空間の中でも端っこ、植え込みの近くで、その半分にも満たないほどに小さな体を丸めて、声を押し殺して、泣いていた。

 泣いているからであろう、こちらに全く気がつかない様子の彼女の泣き声は聞き取りずらくは会ったが、ルークにはその泣き声がはっきりと聞き取れた。

 このまま一人にしておくという手段だってもちろんあったのだが、彼にはそんな考えなど全くなかった。

『女の子が泣いている、自分よりも小さな女の子が。

 だったら自分が助けてあげなくちゃ』

 というように、幼いからこその純粋な心で彼女を助けてあげたいと感じたルークは彼女に話しかける。


「大丈夫?

 何かあったの?」

「ヒッ!?」


 彼が声をかけると彼女はとても驚いたように全身を震わせ、恐る恐る顔を上げる。

 幼いながらも端正な顔立ちをしており、目の色は着ているワンピースがよく映える綺麗な青色をしていた。

 がしかし、その顔や瞳には怯えのような感情が色濃く出ていた。

 それを見たルークは自然と、そんな顔はして欲しくないと思い、誰かも知らないその女の子に自分が思うできる限り優しい声で話しかける。


「はじめまして。

 僕はルーク。

 君はなんていう名前なの?」


 するとその少女はこちらをじっくりと見つめた後、静かに一言こう答えた。


「セレナ」

「セレナか~。

 ねぇねぇ、セレナ。

 僕、今一人なんだけど、良かったらこのお弁当一緒に食べない?

 お母さん、いつも少し多くお弁当を作ってくれるから。

 ね?」


 それに対して彼女が何も答えずにいると、ルークが少し強引に彼女のすぐそばまでやってきて座り込む。

 そして……。


「一緒に食べても、いいよね?」

「…………うん」


 少しだけ強引な彼の態度に心を動かされたのであろうか、彼女は暫しの間のあと、小さな声でそう答える。

 これが彼と彼女、ルークとセレナが出会った『初めて』であった。

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