突然で、必然で
この世界は、言葉以外で伝えられることが少なすぎるんだよ。 言わなきゃ他人に伝わらない。なんて面倒なことだろうね。 見ただけで伝えられたり、触れ合うことで伝えられたらどんなに簡単で楽なことか。
§
「俺の見てない間に面白いことしてたみたいだねぇ」
からかうつもりで言ってみた。 うるせぇ、とか言われるかなって思ったけど、北野は意外にも冷静な感じ。
「面白くもなんともない。 ただ、困ってたから助けただけだ」
「ふ〜ん……」
「……なんだよ」
「いやぁー。 お前ほんと、南澤さんのこと大好きだな」
「……… ああ。 好きだよ」
その返答に、思わず俺は止まってしまった。うん? どうしたんだろ、こいつ。 なんかいつもと違うよな?
「東、どうした」
振り返り、不思議そうにこちらを見つめる。俺は黙って北野に近づき、おでこを触ってみた。
「……うん、熱はないな」
「なんだよさっきから。 からかってんのか?」
「いやぁ、なんか。 やけに素直と言いますか……… ぶっちゃけ変」
「…………東。 放課後、お前暇か?」
真面目な顔してそう言った。 ……なんとなく、要件は分かってしまった。 南澤さんとのことだろ。 てか、こいつの相談てそれしか無いしな…… 俺は頭を縦に振った。
§
「……告白、したいと」
「………うん」
誰もいなくなった教室で、北野はそう答えた。 俺はこのままの関係でもいいと思うんだけどなぁ。 お互い好きなわけだし。 まぁ、それを本人たちが知らないんだから、確かに恋人と呼べるかって言われたら微妙なんだけどさ。でも、下手に付き合ったカップルよりは数倍大事に想い合ってるように見えるんだが、ねぇ。
「一個聞く。 なんでいきなりそう思った?」
今までお前は。まぁ南澤さんもそうなんだろうけど。 気持ち隠して過ごしてきた訳だろ?それも長い間。 なのに急に180度真逆なことしようと思うなんて、一体どういう風の吹き回しですか?
「……俺らもさ、あと1年で卒業するわけだろ。 卒業したら…… 多分、ゆかりとも会えなくなる。 そうなったらきっと、この気持ちは行き場を無くして。 今、こんなに好きだって想うのに。 諦めて、いつかは消えるのかなって。 そう考えるとさ…… すごい、嫌だ」
そう言って、北野は俯いた。 ……… 何年かかってんだよ、それに気づくのに。 てか、多分だけど卒業したくらいじゃ気持ちは消えねぇと思うんだけど? だって、お前らお互いのことすげ〜好きでしょ。 ちょっと距離が離れたくらいじゃ変わらないと思うけどねぇ。
ま、それが北野の答えだってんならーー
「いんじゃね?」
「………なんか軽いな」
「え? だってさぁ、お前が告って上手くいこうが失敗しようが、俺全然関係ないしな!」
俺はそう言って笑ってやった。 そしたらほっぺたをおもいきり掴まれた。 いでで、ギブギブ!
「俺は真剣に悩んでんのに……」
「わ、わりゅいわりゅい! ……ってて。 まぁさ、そんだけ真剣な想いなら、大丈夫だろ」
「本当に、大丈夫かな」
「知らん」
「知らんって…… いや、そりゃあ分からないだろうけどーー」
俺は北野の顔の前に掌を向ける。 喋るな、って意味。 通じてるかな? 黙ったから、通じたか。 ……まったく、このお人好しは。
「そんなん考えてもムーダ。 お前は南澤さんの事を考えてそんなこといってるみたいだけど。それって結局は自分のことしか考えてないだろ」
「そんなわけねぇだろ! 俺はただゆかりを困らせたくないからーー」
「人に気持ち伝えんのがダメなことか? そんなんお前のただの言い訳。 じゃあ何か、南澤さんがお前の告白が嫌だと言えばやめんのか?」
「……それが、ゆかりの意思なら」
「な? お前が南澤さんを中心に考えるのはさ、相手のことを考えるように見せて実は全部お前自身のためなんだよ」
ま、それは多分南澤さんもなんだろうけど。お互いがお互いのことを考えてる。 相手にとって自分はどうすればいいかって。 それは優しさでもあり、同時に臆病でもあるってことになるんじゃね?
「怖いんなら言うな。言わずにそのまま悩んでればいいじゃん」
「……嫌だ」
意外な返答に俺は一瞬驚いた。 いつもなら「そうだな……」とか言うくせに。 今回こそ、本気なのかもねぇ。
「俺は…… ゆかりが好きだから。 それだけは、誰にも負けるつもりはない」
「……… ははっ! クッサイ台詞だねぇ。 なに、ドラマの見過ぎか?」
「………人が真面目に言ってるのに、お前なぁ」
「いや、わりぃわりぃ。 ふぅ……. ま、頑張ってみろよ。 協力はしないけど、応援はしてやる」
「………おう」
隠れてばっかだったくせに。 なんか、かっこいいじゃん。 俺には、出来ねぇなぁ。 そこまで人を好きになったこともないしね。
見つからないように隠れてたお前が、やっと探そうと一歩踏み出した。 どうなるか、特等席で見させてもらうぜ?