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隠恋慕  作者:
5/7

見つめて、想って












俺が見てるものは俺しか分からない。 映るもの全てに何を思うのか、それは俺の自由なんだ。 何を見ようが俺の自由、それに対してどんなことを思っても、俺の自由……だろ?





§




「もうすぐ3年生も卒業かぁ。 いよいよ俺らも最上級生ってやつになるんかね?」

後ろの席で東がぼやく。 俺は振り返り、持っていた教科書で頭を軽く叩いた。


「いてっ。 きたのぉ、何すんだよ」

「今自習だぞ。 真面目にやれとは言わないが、せめて課題くらいは終わらせとけ」

「あいあい。 まったく、意外と真面目で困っちゃうぜ」

そう言いながらシャーペンを手にとった。 意外とってなんだよ。 真面目で悪いか、むしろ良いことだろ。 お前みたいにサボってないんだから。 少し苛立ちながらも、東がまたサボらないか監視するため、椅子を後ろに向けて座り直した。



……そんなの、適当な理由付けなんだけどな。 こんな理由がなきゃ見ることも出来ないなんて、俺は本当に……臆病だ。 東に課題を教えながらも、俺の視線は一番後ろへ向かってしまう。



課題のプリントと睨めっこ。 下を向いてるから顔までは見えない。見なくても、ゆかりだってことは分かるんだけど。 ……ペンを持つ手がまったく動いていない。 英語、中学の頃から苦手だもんな。 顔見えないけど、多分悩んだ顔してるはず、そう思うと少し笑えた。小西さんは席離れてるから頼れないし、誰かに話しかけるのも苦手だもんな。






俺が、隣にいたら……




「つーかさ。 見すぎじゃね? 目の前の悩める男子に教える気無いのかよ」

「え。 いや、その…… 悪い、どこが分かんないんだ?」

「……南澤さんになんで好きって言わないかがわぐっ⁉︎」

「どこが。分かんないんだ?」


俺はすぐに東の口を手で塞いだ。 東は何か呻きながらもプリントを指差す。 こいつ、油断してるとベラベラ喋ってしまいそうで本当に怖い。


「ああ。 これはだなーー」

「南澤さん、悩んでるみたいだな」


その言葉に、俺はすぐに顔を上げた。 東は後ろを見てる。 ゆかりを見てる、そう思ったらなんか嫌で、東の耳を引っ張ってこちらに向き直させた。

「痛いって!」

「教えてもらってその態度はないだろ。もっかい二年生やりたいのか?」

「ごめん、それはマジで嫌だから教えてください」


ようやく東をプリントに向き合わせることが出来た。 こいつは頭は悪くはない、態度が悪いだけで。 多分、真面目に勉強すれば俺よりも点は取れるだろう。 まぁそういう風にさせるには時間と手間がかかるし、第一本人がそれを望んではいない。 だから別に俺は何も言わない。 急に東が真面目になったら、俺も戸惑うだろうし。

「……ほう、なるほどね。 だいたいやり方分かったわ。 あとは上手く応用してけばいんだろ?」

「ああ。 基本が分かれば後は組み合わせてくだけだからな」

「うぃ。 ま、じゃあ後は自分でやってみるわ。 北野はどうぞ自由にしててください」


そう言って、東はチラッと後ろを見た後課題のプリントをやり始めた。 ……こいつ、絶対今楽しんでやがる。 なんか悔しい。まるでこいつのおかげで、ゆかりのこと見れるみたいで。 別に見たいとは言ってないだろ、たまたま後ろにいるから、見てしまうだけだ。 俺は自分に言い訳しながら、ゆかりの方を見る。







たった数分。 俺が東に課題を教えてる間に、ゆかりは隣の人と何かを話していた。 多分、課題のことだろう。 隣の人が気を利かせて教えてあげてるんだろう。 きっとそうだ、そうじゃなきゃ…… 嫌だ。 会話なんて聞こえてこない、でもその横顔は笑っていた。 感謝の意味で笑ってるんだ。 ありがとう、って伝えてるんだ。 そこに深い意味なんてない。 そうじゃなきゃ、俺はーー





不意に合った視線。 俺はすぐに俯いた。


絶対に、変に思われた。 見ていたことがバレただろうな。でも、今の俺の顔はとてもじゃないが見せられない。 こんな顔、見られたくはなかった。 こんな感情のまま、ゆかりのことは見れなかった。


「……ヤキモチ」

「……うっせぇ」

「ふぅ。 本当に、そんな顔しちゃうくらい好きなわけね」


字を書く手を止めず、顔も下を向いたまま、東はそう言った。 そうだよ、ヤキモチだよ。悪いかよ、でも好きなんだから当たり前だろ。 俺だってかっこ悪いと思ってるよ。 好きな子が男と話してるだけで、こんな風に気分が落ちるなんて。 別に俺はゆかりにとって特別でもなんでもないのにさ、自惚れんなよ。






逸らしてしまった視線。 俺を見ていた、なんてのは本当に自惚だろうけど。 でももしもさ、俺を見たのなら…… 何を思っていた? 知りたいけど。 今の俺に、もう一度ゆかりを見る勇気は出なかった。







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