言えなくても、抱いてる
自慢じゃないけどさ。 俺は今まで何回か告白されたことあるんだよ。 だから、女の子と付き合ったことも当然ある。 でもさ、毎回フラれんの。 その時絶対言われるんだ。好きって気持ちが無い、って。 そんなつもりないんだけど。ちゃんと好きだから付き合ってたんだけど。 訳わかんねぇ、そう思ってた。 だけど今、北野を見てて少し分かってきた気がする。
俺はあいつみたいに、恥ずかしくなったり。言いたいけれど、言えないってなったり。 そんな風に好きって感情と向き合ったことがないんだ。 俺は好きなら好きと言う、でもそこに順位とか特別とか、そんなものは存在しない。 好きなものは好き、そんな感覚。 好きって気持ちは俺の中で常に一定なんだ。
§
「そりゃそうでしょ。 好きって言われて、それを相手が受け入れたら恋人になるわよ」
「いやぁ、分かるんだけどさ。 ……なんていうか。それはさ、結局小西の基準でしょ?告白が上手くいったら付き合うって」
「基準っていうか、それが普通よ」
小西は自信満々にそう言った。 んー、なんて言えば伝わるかなぁ。 こう…… 恋愛ってそんな単純なものじゃないって俺は思うんだよねぇ。
「ちょっと長く話していい?」
「嫌だって言っても話すんでしょ?」
よくお分かりで。 流石南澤さんが信頼してるだけある。 キツイ言い方が多いけど、根本的に良いやつではあるんだね。
「あの二人は不器用なんだよな。 周りから見れば両想いなのバレバレでも、本人たちは気づいてない。 そんでそれを確認する方法も分かってるのに怖くて聞けない。でもそれがあの二人の基準なんだよ。 好きってのは、言うものじゃなくて抱くものだって」
だからその分、本人たちは気持ちが強くなるほど辛くなると思う。 言えたら楽だとか、辛いからやめてしまいたいとか。 思うかもしれない、それでも。 多分あの二人はお互いを思い続けんだ。想う時間が長い分、視野が狭くなってんだ。 ただ一人だけを見つめてるんだよ。
「じゃあ、あんたは今の関係が正解だとでも?」
「んー。 正解なんて軽々しくは言えないけど。 今の状況はある意味二人が望んでやってることかなって」
「……バッカじゃない」
小西は不満そうにそう言った。 それは誰に向けて言ってんの? 俺? それともあの二人に?
「仮にあんたが言うように。ゆかりと北野くんが望んだ状況だとしても。 好きって気持ちは言葉にしなきゃ伝わらない。 言わなきゃ、始まんないのよ」
そう言って、小西は教室の方へと歩いて行った。
「厳しいねぇ。 いや逆に、優しいのか?」
南澤さんのこと考えるなら、確かに今の状況は良くは見えないよな。 でもね、小西。 それを決めるのは残念ながらお前じゃない。もしもあの二人が今の関係で満足してるなら、その時点で二人の恋は実ってるとも考えられるだろ? だってさーー
「隠すことでお互いを想ってられんなら、それは幸せなんじゃねぇかな……」