探さなきゃ、見つからない
あの二人はお互い同じ気持ちなんだ。 見てれば分かる、二人とも意識してるってこと。片方が勇気出せば全部上手くいくんだ、二人が望む結末になるはずなんだ。 そして、その勇気を出すべきなのは絶対に北野くんの方なんだ。 ゆかりは隠すので精一杯なんだから、それを見つけてあげるのが彼の役目でしょ。それをいつまでも…… 焦れったい。 見ていてイライラする時がある。
§
「あれ? 小西、何黄昏てんのさ」
「なんだ、東か。……教室に戻るの嫌なの。 あんたのお友達にイライラするから」
「へぇ。 友達想いは結構だけど、あんま考えすぎても疲れるだけだぜ?」
「だから今休んでんでしょ」
外はいい天気なのに、なんだか気分はスッキリしない。 原因は分かってる、北野くんが根性ないこと。 そして一人になりたいのに、このお節介が話しかけてきたことだ。
「東、あんたからも北野くんに言ってやってよね」
「ん? 何を?」
とぼけた顔して。 こいつだって分かってるはずなんだ。 それを知らないと言った顔して…… こいつのこういうところが私は大嫌いだ。
「ゆかりのことよ。 北野くんが動かなきゃ、何も変わらないって」
「あー…… そのことね」
「あんただって気づいてるでしょ。 お互い好きなの、だから北野くんが頑張れば上手くいくのよ」
「んー。 そっかなぁ……」
少し笑ったような表情で、東は「うーん」と悩み出した。 こいつ…… ワザとでしょ、そんな悩んだふりして。 あんたも私と同じ意見でしょ? だって立場が似ているじゃない。 そうするのが正解だって、あんたも思ってるんでしょ?
「もーいーかーい?」
「……は?」
唐突に、東はそう言った。 訳が分からない、いきなり何? それに対してどんな答えを求めてんの、あんたは。 そんな私を気にせずに、東はゆっくりと口を開いた。
「これ、北野が南澤さんに送ってるメッセージなんだよ」
「……意味が、分からない」
「俺も。あいつさぁ、南澤さんの気持ち分かるまでは告白出来ないって思ってんの。 バカでしょ?」
「……なにそれ」
ゆかりの気持ちが分かるまでは自分の気持ちは言わないってこと? ゆかりが好きなら、自分も好きって伝えるってこと? ……根性無し、臆病者。最後まで隠れてるつもりなの、探すつもりはないくせに見つけてほしいなんて…… 本当にイライラする。
「あんなやつ、ゆかりと付き合う資格ない」
私はハッキリそう言った。 ゆかりは大事な友達だから。 だから幸せになってほしい、だからゆかりが好きならそれを応援したい。でも、辛い思いはしてほしくない。 北野くんを好きでいることで悩んで傷つくくらいなら、私はそれを否定する。 そんな臆病者に、ゆかりを幸せに出来るわけないから。
「……小西。 変なこと考えるなよぉ?」
私の顔を覗き込むように、東はこちらを見る。
「……北野くんにはガッカリした」
「んー、それは残念」
「あんたは北野くんの考え方に賛成なの」
「ん? 賛成も反対もないなぁ」
「よくあんなのと一緒にいれるね」
「あはは。あんなだから、一緒にいて楽しいんだよ」
また笑っている。 ほんと嫌い、東のこういうところ。 分かってるくせに分からないふりをする。 言ってあげるべきことをあえて言わずに見てるだけ。 あんたが北野くんにハッキリ言えば変わるでしょ? ゆかりの気持ちに答えが出て、私がイライラすることもない。 なんでそれをしないの! 二人だけじゃ答えを出せない時もある、その時手を差し伸べるのが友達なんじゃないの!
「……小西」
「なに」
「告白したら、その二人はもう恋人同士になるのかね?」
「……は?」
唐突な問いかけ。 東のその顔に、先ほどまでのヘラヘラした表情はなかった。 どこか悩むような、そしてどこか切ない表情だった。