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男の決意

コテージで出発の準備を始めていると美味しそうな匂いが漂っていた。


「まさか、朝飯作ったとかいうんじゃないだろうなー」



「なに?私が作っちゃそんなにいけないわけ?作ったのは私じゃなくて隣で泊まってたご夫妻が、朝ごはん作ったけど急に出なきゃいけないから食べてってもらったものですけどね。私のご飯は食べられないってことよね。いいわよ。もー作らないから。私のじゃないからさぞよかったでしょうねー。」


リンの悲しそうな声に流石に俺も寝起きとはいえ無神経すぎたなと反省し、


「ごめん、ごめんそんなつもりでいったわけじゃないんだよ。よかったらまた作ってくれないか?」


リンの悲しそうな顔が一瞬で笑顔に変わった。


「よかったー。また作るね。楽しみにしてて。…」



テツは自ら墓穴を掘ってしまった。あんな笑顔で見つめられると返す言葉が見つからず、うん。としかいいようがなかったが、テツの頭の中ではいち早く料理のできる人を見つけなくてはという使命感を覚えた。



「ところでリン?故郷までの行き方はどうするんだ?歩いて行くのか?」


テツはリンが今日の夜も作るねと言おうとしてるのを感じ、遮るように話題を変えた。



「あぁ。それならもう大丈夫よ。テツがぐっすり寝ている間にコテージに電話があったから明日知り合いに迎えにきてもらうように連絡しておいたから。」


「そうか歩かなくていいのか。よかったー」


その言葉にリンは「クスっ。」と笑った。


「なにがおかしいんだよ。」

テツは見逃さず突っ込んだ。



「だってそうじゃない。いざ家を出た人が歩かなくていいなんて。おかしな話だなって思ってさ」


テツはなにも言い返せない。

またリンの勝ちだ。


このときテツは余計なことは話さないと心の中で誓った。



その日はリンとテツ双方が持ってきた荷物を確認しあい足りないものの調達をすることにした。


言うまでもないがこの日もリンの料理にテツが生死を彷徨ったのはあまり深く触れないでおこう。


そうして迎えの日がやって来た。


迎えにきたラルはタバコをふかしながらテツ達のコテージの中に入ってきた。


「おい、リン!こいつは誰だ?冴えないやつだな。ほら早く乗ってくれ。俺もこれから違う用があるから急がないといけないんだよ。」


クスっと笑いながらリンが、

「テツ様よ。知らない?冴えないやつなんてほんとあんたは思ったことをそのまま言うのね。その性格やめたら?」



「わりぃわりぃ。そうかそいつがテツか。悪かったな」

とラルは頭をかきながらテツに謝罪した。

「わりぃ、電話だ。」

そういうとラルはその場を離れた。


ラルの電話をいいことに車に向かう途中テツは小声でリンに、

「なぁ、リン。大丈夫なのか?あいつとどういう関係なんだよ」


「多分大丈夫だと思うよ。ラルはね強面に見えるかもしれないけど根はいいやつなんだから。うーーん。関係はねー。腐れ縁ってやつかな。なに?男だから気になった?」


リンはテツが近づいて耳元で話しかけてきたことにちょっとテンションがあがっていた。


そんなことはよそにテツは心配で仕方なかったが……。



車に乗り込み出発したもののすぐ異変に気がついた。


「なぁ、行く道違くないか?こっちであってるのか?こっちってよ俺らがコテージに向かって来た道じゃないか?」



ラルは不安がるテツに向けて、

「ごめんよ。ちょっと野暮用があるからそれを済ませてから向かうよ」


テツは不安だったが運転させてる手前、わかったとしか言えなかった。



しばらくして車が止まったときテツは顔面蒼白になった。


「おい、ここって俺の屋敷じゃねーかよ。野暮用ってなんだよ。俺の屋敷に用があるのか?」


焦るテツを見てラルは今までとはまるで別人かと思わせる形相で、


「用ってのは、あんた、テツを屋敷まで届ける事だよ。カノさんとこのメイドが家に来てねー、もしテツから連絡があったときは黙って家に届けて欲しいってね。」

「謝礼もがっぽり貰えるんだぜ。こんなことをするだけでさ。まさかこんなに早くお目にかかれるとは思ってなかったぜ。おとなしく家に帰りな。すぐ迎えがくるだろうさ」



すると屋敷の中からドッとメイド達が湧いて出て来た。一番後ろにカノもいる。



本当に1日しかもたなかったなとテツは頭を抱えながらうなだれていた。

隣のリンを見ても手を合わせて謝ってる始末。

だがその中でもリンはなにか策を練っているようだった。



「あっ!?いちかばちか。」

リンがなにか閃いてテツに策を耳打ちで伝える。



「そんなことしても意味ないと思うんだけどなぁ。でも他になにかあるわけでもないからやってみるか。」



半ば諦め気味でテツはラルに語りかけた。


「なぁ。カノ達からなんて言われてるかしらないけど、俺はどうしても探したい人がいて家を出たんだ。ほとんど当てがないといってもいい。そんな当てのない状況を作ったのは今まで何事に対しても無頓着だった俺自身なんだけどね。」

「それでまずはこの時計の持ち主を探そうと思うんだ。そしたら俺がどうしても探したい人と出会った場所がまずわかる。これは淡い期待かもしれないけど、持ち主がその人だったらなおいいと思ってる。」


「こんな自分が抑えられないと思ったのは初めてなんだよ。こんな気持ちになったのは始めてなんだよ。だから!だから!こんなすぐに終わっちまうのは嫌なんだよ。戻っちまったらなにもかもが終わるような気がするんだ。」


「だから頼むよ!こんな俺を助ける義理はないかもしれないけど、カノ達の目の届かないとこであればどこでもいいんだ。頼む!力を貸してくれないか?」


テツは時計を目にし探そうと決めた時のいやらしい感情はなくなっていた。

家を出たことによりテツの考えに変化が見えてきた。それ故ラルに伝えたことは作り話ではなくテツ自身が思うことを率直に伝えていた。


それを感じ取ってなのか話を聞いてたラルは、

「おまえさんを初めて見た時は冴えない男で本当に典型的なボンボンかと思ったけど、違うようだな。男のやると決めたことを俺様がここで止めちまったら男が廃るな。」


「よし!任せとけお前の運転手、いや目的地までの届け役にしとくか!それは俺がやってるやるよ。」


そういうとラルは急発進し、ハンドルを思いっきり切って屋敷を飛び出した。


カノ達は砂埃に巻かれ全員一様に尻もちをついていた。


あまりの急発進に車の中で崩れ落ちるテツ、だがそれと同時に三人の笑い声が車の中に響いた。




難を逃れリンの故郷アドミスに到着した三人。


「車飛ばしたら腹減ってきちまった。どっかで軽く飯にしようぜ。」

ラルの提案にリンは、ハァと溜息を深くついていた。


「あんたさっき何したかわかってるわけ?私たちを嵌めようとしたのよ。今回の一件でわかったけど、あんた以外の人のところにもカノたちのメイドが手回ししてるかもしれないのよ。注意して動かないとなにがあるかわからないわよ。」


ラルもテツも黙ってしまった。


ラルは恐る恐るリンにつっこまれないように、だったら俺がお忍びでいってる飯屋にいかないか?と声に力はないものの提案してみた。


本当に大丈夫なのと言わんばかりのリンの目線を浴びるラルだがここは負けてはいけないと思ってか、大丈夫だ何かあったら俺がなんとかすると言い放った。


リンは信用していない様子だったがテツが、

「ここはラルさんに任せようよ。リンも故郷とはいえ暫く帰ってなかったんだから町のことはよくわからないだろ?」


テツがそう言うんならと渋々リンも承諾した。


ラルの連れてきた飯屋は町の外れにあった。

車はカノ達に見られているので人目につかないところに置いてきた。

見つかって回収されてもいいやと半ば諦めているラルは少し元気がなかった。


車の置き場所についてもリンと話し合い見事に撃沈したからだ。



飯屋に入ると、いらっしゃいませーお好きなお席へどうぞー。と明るい声が聞こえてきた。

挿絵(By みてみん)

その飯屋は女の子が一人で切り盛りしている所だった。


いつもの席なのだろう。ここに座ろうぜといってすぐ席に着きラルがここのオススメ食べてくれよといって、いつものように女の子を呼んだ。


「なぁ。モモ。いつもの三つ頼む。あと水早く持ってきてくれー。」



「あんまり急かさないでよー。ラルさんったら」


と小走りで水を持ってきた瞬間時間が止まった。


次の瞬間ラルは水まみれになっていた。


クスクスと笑ってるとラルが、

「お前はいつもそうだよな。おっちょこちょいというか天然というか、どこか抜けてるよな。」



モモは頬を膨らませてラルを見ていた。

「なによー。そんな風に言わなくてもいいじゃない。そんなこと言ったらラルの分だけ持ってきませんよ。」


そう言い残し厨房に戻っていった。ラルさんの分の水は抜き。



「あっ。水とふきん持ってくるの忘れてたー。ごめーん。」


といいながら料理と一緒にラルの水が運ばれてきた。


やはりどこか抜けてる。水を取りにいったのかと思いきや料理を持ってくるときに気づいて水を取りに戻り一緒に持ってきたからだ。


ラルに酷いことを言われたから嫌がらせで持ってこなかったということではないらしい。



運ばれてきた料理はザ家庭料理と呼べるようなもので、タバコを吸ってるいかにも不健康そうなラルが食べるようなものとは思えない。


後日聞いた話だがモモがラルの健康を考えて日替わりでメニューも少しずつ変えて健康に気を配っていたそうだ。最初の頃はコッテリしたものばかり食べていたとも言っていた。



話を戻そう。


食事をしてる最中テツ、リン、ラルは今後のことについて考えていた。


カノのメイド達の話題になった時厨房からモモが、

「わたしのところにも来たよ。メイド姿の人。もしかして探してるのってあなたたちなの?たぶんこの町の殆どの人達が知ってると思うよ。こんな町の外れにいるわたしだって知ってるくらいだからね。」


モモはどういった風に聞かれたかなど事細かに教えてくれた。


なぁ、モモとラルが謝礼の話はされたのかとか俺たちのこと知らせるのかなどをモモに聞いていた。


「なに、ラルさん。お金に眩んで知らせたりしたの?ひどい!!わたしそんなことできないよ。」


「ねぇ。もしよかったらわたしの家でゆっくり今後のこと話したらどうですか?ここだと誰が入ってくるかわからないので。」


テツ達にとっては願ったり叶ったりな申し出だった。


ちょっと抜けてるところはあるにしろ悪いことをするような子には見えないのでテツとリンはお互いを見合い軽く相槌をした。

ラルもあいつなら大丈夫だというような合図をした。


モモの作った料理は絶品で違うものも頼みたい気分だったが、早々に食事を済ませモモの家に向かうことにした。モモも店を準備中に変えてすぐに家に案内してくれた。


家に着いたテツ達を置いてモモは店に戻っていった。


モモは困ってる人を放っておけないタイプのようだ。ただ店に戻る時家の鍵をかっていってしまった。テツ達がいるのに。。


「やっぱ抜けてる。。でも憎めないね。と三人は笑った。




三人で次の行き先を決めるのに話し合った結果、向かう先は貿易の街リクシャーにきまった。


大きな町だから人混みで気づかれにくいだろうということと、時計が特殊な形だったので製造元を調べるのに詳しい人がいそうということ。


一番の決め手は距離が多少あること。

少しでも遠くにいきたいというのが三人の共通意見だった。


夜になりモモは店の残り物を持って帰ってきた。


食事を終えテツはモモを外に誘い出し、よかったら一緒にこないかと誘ってみた。

手を握りテツは熱く誘った。


構いませんよ。とモモは言ったものの違和感があった。


この時テツの自身に起きてる異変にまだ気づいていなかった。



テツはガッツポーズしていた。


リンに万が一聞かれたらまずいのでモモにこっそりと、

「ひとつ頼まれてほしいんだけど、これから料理を作る機会があったらモモが作ってくれないか?万が一リンもやるといったら、サポート役にして大事なところはモモ。お前が作ってくれ。頼む。あいつの飯で俺は。。」


そこまでいったところで察したのかモモは笑いながら、

「わかりましたよテツさん。それだけ小声でも目が本気すぎです。怖いですよ。でも私の料理で、うふふ。いや、頑張りますね。こんなに私に期待してくれる人なんて初めてなんて、モモ嬉しいです。」


テツはほっとしてベットに戻りこれでぐっすり寝れると思った。

だが、隣で寝てるラルのイビキがうるさくてあまり眠れなかった。

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