己とは
部屋には沈黙が流れていた。
何時間やっているんだと思わせるほど長い間ジャキは上半身を脱ぎ座禅をし目を閉じていた。
静けさの中、目を閉じていると馬鹿養父の事が頭をよぎる。
気持ちがイラっとするたび優弥に喝を入れられ、背中を叩かれた。
馬鹿養父に対してイライラしてるときに喝を入られてるということはすぐにわかった。
でもイライラはおさまることはなく背中も真っ赤に腫れていった。
そんなジャキだったがしばらくすると心情に変化が生まれていた。
「あんな馬鹿親父だったけど元気にやっているのだろうか」
「ロキさんに公衆の面前で殴られたけどその後大丈夫だったのだろうか」
「酒を買って来いだの、タバコ買って来いだの、飯はまだかだの、稼いだ金が足りないだのとクソ野郎の養父だったのに親父とよんじまってる俺がいるな」
自然と喝も入らなくなっていた。
「こんなにゆっくりと親父のこと考えたことってあったっけ………」
「ジャキ?目を開けていいぞ」
優弥の声にゆっくりとジャキは目を開けた。
「ジャキ?なにが頭をよぎった?」
「親父………」
「親父のこと嫌いか?」
「嫌いだ。でもなんかちょっと今は嫌いとは違うんだよな。うまく言えないけど…」
「親父に対してなにか思うことがあったら今吐き出せ!」
ジャキは自分の故郷のこと、親父に暴言を、吐いて出てきたこと、そのあと親父がどうなったか心配だということを優弥に話した。
「親父に会いたいか?」
「………」
「親父のことが頭の中に残っててお前の引っかかりになっているんだな。今会っても何も変わらないって事も分かってるんだな。覚悟の上で出てきたんだろ。だったらこれからは自分の事だけ考えろ。そしてお前が本気で会いに行きたいと思った時に会いに行け」
強がっていたジャキはここでは通用しない。
弱い部分は全て優弥に見透かされる。
優弥もジャキが何か抱えてる子だとすぐわかったのだろう。
優弥が同じような境遇だったということをジャキは知ることはなかった。
「ジャキ!一緒に風呂いくか!そのあとはまた座禅の続きな!」
「ま…た…座禅…」
ジャキは肩を落としてはいたがどこか気持ちが晴れやかだった。




