師範代との出会い
ジャキと弟子たちは道場の前にやってきた。
これぞ道場と言わんばかりの立派な門構えだ。
入口には新人なのだろうか、華奢な男が掃除をしていた。
「なんだ?お前だけまた掃除しているのか」
「他のやつは何をやってるんだ。昼の稽古が終わって今休憩の時間だろ」
「はい。他のやつらは各々部屋でくつろいでいると思います。先輩!俺ムカつきます。手伝う気ゼロだったんですよ。お前がいけばいいという感じで、、悔しいです」
「師匠には言わなかったのか?」
「師匠は急な用事が出来たとかで、先輩達が出てった後すぐ出て行かれました」
「ったく師匠や俺たちがいないことをいいことにあいつら!ちょっと待ってろ」
そういうと怒りの形相で道場の中にはいっていった。
「あのぉ、一緒に行かなくてもいいんですか?」
ジャキは恐る恐る聞いてみた。
「今入ったら俺たちまで危ないからな。ここにいるのが一番だ」
ジャキはその言葉を聞いて急に寒気を感じたとともに鳥肌がたった。
ほどなくして怒声とともに何人か引きずられながら外に出てきた。
その顔は見るにたえなかった。
怒りに満ちていた顔をしていた男もジャキの所に戻るなり笑顔に戻った。
「ジャキ。見苦しい所を見せてすまなかったな。どうも俺らや師匠がいないとあいつらロクでもないことばかりするからよ」
「いや。だ、大丈夫です」
内心ジャキはこんなことになるの分かってるならいなくてもしっかりするだろ。普通。と思っていた。
「師匠はまだ帰ってこないから会わせられないしなぁ。これからまた稽古が始まるからそれを見ながらでも待ってるとするか」
「はい」
これからどんな稽古が待っているのか、ジャキは恐怖と共に期待に胸を躍らせた。
道場に入るとジャキはすぐに身が引き締まった。
ジャキと今まで優しい口調で話していた男達が道場に入り集まると一斉に座禅を組み始め精神統一をし始めた。
その姿を見てジャキは見様見真似で座禅を組んでいた。
目をつむっていると
「どこかぎこちないですね〜。こうすると楽になりますよ〜」
ジャキは目を開けた。
目の前には、優しさオーラを漂わせたメガネをかけた若い男性が立っていた。
「優ちゃん。こちらの方は?入門希望の方ですかぁ?」
「師匠!おかえりなさいです!この子はジャキといって昼飯を食おうと寄った定食屋であったんすっ!」
「そこで強い人間になりたいっつうんで道場に連れてきました!師匠の許しもなく勝手にあげて申し訳ないっす。でもジャキの目を見たらつい」
「そうでしたか〜。優ちゃんが連れてきたいと思うほどとはなかなかですね〜」
メガネの男はジャキの体を舐め回すように見ていった。
「ジャキちゃん、わたしはこの荒神道場の師範代をつとめております荒神若葉といいます。何もないところだけどゆっくりしていってね〜。わたしは部屋に戻って道着に着替えてきますね。戻ってくるまで準備運動でもしていなさい。見てるだけだとつまらないでしょ。優ちゃんあとはよろしくね」
ジャキに笑顔を見せ若葉は道場をあとにした。
「ジャキ。お前師匠に気に入られたな。俺が言うのもなんだが、ちゃん付けは認められた者しか言わないんだよ」
「あっ。俺の名前いってなかったな。俺は守嶋優弥。好きに呼んでくれ。よろしくな」
「おい!ジャキに道着早く持ってこい。師匠が準備運動してなさいっていってただろ!そういうところを気づくやつはうちにはいないのかね。ったく、どいつもこいつも遅えんだよ。ちっ。ジャキ!すまねぇな。もうちょい待ってくれ」
「いや、ゆ、ゆ、優弥さん、俺は大丈夫ですから、け、け、血管が、、浮き出て、、」
優弥の大きな声にジャキの声は震えていた。名前を呼ぶのさえ、俺なんかが呼んでいいのかと悩んで振り絞って呼んだ。
優弥と若葉の立場逆じゃないか?と思いながら道着に着替え優弥と準備運動をし、軽く汗を流した。




