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ウォッタッチドロップ  作者: 都 麗華
夢の町イギー編
32/39

強い男

会場から拍手の音が鳴り響く。


アナウンサーの声から決勝の相手はヴァレリに決まったようだった。

ヴァレリは試合が終わり周りを見渡していた。

そしてモモを見つけるなり鋭い眼光を飛ばしてきた。


それは待ってなさいと言わんばかりの目だった。


ほどなくして会場には決勝までしばらくお待ちくださいアナウンスが流れた。


そこまで時間がかからないらしく控え室の様な所にモモは通された。


モモは2回戦の最中からジャキ達の姿を見ていなかったから控え室に案内される間少し不安になっていた。


「試合には間に合うように戻るっていってなかったっけなぁ。何かあったのかなぁ。」


しばらくすると控え室の外がまた騒がしくなってきた。

決勝開始宣言アナウンスが流れ出していた。


《決勝は料理項目指定にて行います!ご飯もの、汁物、揚げ物。この3品での勝負になります》


モモはその3品を聞くとすぐに作るメニューが決まった。

お婆さんお爺さんから受け継がれた店の味でもある、味噌汁、炊き込み御飯、ザンギ、漬物という店でいつも作っていたメニューがすぐ頭に浮かんだからだ。


いつも作っていたメニューだからモモは調理開始のゴングを聞くと、出来上がるまで一つのミスもなく流れるように3品をあっという間に作り終えてしまった。


作っている間モモの脳裏にはお婆さん達と仲良く作っていたあの頃を思い出が流れていて自分の世界に入っていた。


自分の世界に入っていたためだろう。観客のどよめきに全く気がつくことはなかった。


どよめきが起こったのは必然と言ってもいいのかもしれない。

決勝という舞台にもかかわらずモモが作ったのは普通の定食だったからだ。


《両者調理が終了したようですね。見た目ではヴァレリ選手が優勢には見えますが果たして優勝するのは!!モモ選手か!ヴァレリ選手か!これから実食です!》


::::::::::::::::::::::::::::::


その頃モモが心配していたリンとジャキはというと……。


「そろそろモモの試合もいいとこまで進んでるんじゃない?戻りましょうか」

そうリンが言った時だ。


屈強な男たちが来店してきた。

ジャキは一応うんと返事をしていたが男達に羨望の眼差しを送っていた。


「ねぇ、ジャキいくよ。人の話聞いてる?」


「うん。聞いてるけどさぁ」


「ジャキくん。あの人達はね、この近くの道場のお弟子さんたちだよ。みな中々の腕前って話だよ」


「ふ〜ん。そうなんだぁ」

ジャキの目の輝きが増していくのは見てすぐわかった。



その余りの熱視線に一人の屈強な男がジャキたちに近づいてきた。

「どうしたチビ。俺たちになにか用かい?」


「チビじゃねぇ。ジャキだ!」


「こりゃすまんかった。ジャキ君なにか用かい?」


「用っていうのじゃない。俺もあなたたちみたいな強い人間になりたいなっていうのを前にドリームタウンで書いたんです。どうやったらあなたたちみたいになれますか?」


ジャキは素直な気持ちをぶつけた。


「おお。だったら叶えようじゃないか。俺たちの道場に案内してやるよ。ついてきな。立派な男にしてやるよ。お前みたいなまっすぐな目のやつは久々にみたからな。大歓迎だよ。おっと姉ちゃんすまん。ちょっくらジャキ君借りてくぜ。」


「えっ!?えっ!?」

ジャキは戸惑いはあった。でもそれ以上にこれで強くなってやるという。強い意志が芽生えてきた。


「リン姉ちゃん何かあったら連絡するね」

リンに言い残すと凄い勢いで連れて行かれた。本人同意でなければ完全に誘拐だ。


リンはただただ連れて行かれたジャキを口をあんぐりとあけて見送るしかできなかった。

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