思い出
明くる朝ボルに会うため身支度をしていると窓の外が突如猛吹雪になった。
「おっ!ボル来たな!」
扉を開けるとボルの後ろに沢山の狼達が並んでいた。
「テツすまん。仲間が何人か聞くのを忘れたので多めに連れてきた」
「おはようボル。さすがにそんなに仲間はいないかな…」
テツは苦笑いをしながら答えた。
林にいる狼達がみんな来たんじゃないかと思わせるぐらい相当な数が集まっていた。
「では皆さん各々跨ってください」
ボルの声とともにテツ達は狼達の上に乗り出発していった。
乗り込んでは見たもののあまりのその後一瞬の出来事にみんな驚いていた。
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「えっ!?もう着いたの?」
ボル達の林へとやってきたテツ達だったが、林で待っていた狼達は荒らされはしないかと少し警戒体制に入っていた。
ボルの説得を聞き入れていない狼も中にはいるようだ。
ただ昨日頭を撫でた狼は余程テツの事が気に入ったのかテツの膝の上で撫でてくれと言わんばかりに寝そべっていた。
「ねぇ、ボル?昨日私たちが林に入った時こんな所なかった気がするんだけど………」
リンがボルに問うと。
「そうでしたか。常に雪煙で外部の物を入れないようにしているのでその為入れなかったのでしょう」
町の人たちが入れないように警備体制をしいていることを教えてくれた。
「では、さっそくだが本題に入ってもいいかな?色々と聞きたいことあると思うけど。
まずは俺とパトの出会いだったよな」
と、まずボルはパトの出会いの前に昨日テツに話した弟の死のおさらいをみんなにした。
「で、弟の死の恨みから弟を殺したやつを探すため町の人たちをおれが襲っていたんだがそんな最中の夜中にパトは現れたんだ」
「最初に会った時俺はパトを襲った」
「散々いたぶったからもう現れないと思った。でもあいつは違った」
「次の日パトは俺を待っているかのように同じ場所に立ってたんだ」
「その時俺は言葉をまだしらなかった。でもパトは俺に何か言葉で伝えようとしてきたんだ。何日も何日も俺にパトは同じように問いかけてきた。ただ俺は何も分からずパトを襲っていた」
「何日も何日もパトと拳で語り合う日々が続いて、いつしか俺とパトが会うのが日常っていう風に変わっていった」
「何日も何日もお互いボロボロになりながら拳で語るうちに俺の怒りが徐々に薄れてきた。そして言葉は通じなくてもお互いを認め合い、なんというか変な感情が芽生えてきたんだ」
「そしてパトを認め始めたある日、この時計を持ってきて俺の首にはめたんだ」
「これだ」
白い毛の中から時計を見せてくれた。
時計は止まっていた。
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「それでな首に時計つけたらな」
「おれ、パトっていうんだ。お前名前なんていうんだ?」
「いきなり声が聞こえてきたんだよ。おれその時ほんとビックリしたんだ」
「時計を首につけたことで話していることが聞こえるようになったんだよ」
「それからというものお互いのことを話すようになり拳ではなく言葉で語り合うようになったんだ。俺らは友になったんだ」
「自分のせいで弟を殺してしまったという歯がゆさから、仇であるあの男を探しているということ。でも本当はそういうことをしても弟が帰ってくることはなく、ただ自分のやってることを正当化したい、弟への罪滅ぼし、自己満のためだということを知ってるが故に自分に対して虚しさが込み上げること」
「あいつには何もかも話せた」
「パトも集落を離れてきたことが間違いだったんじゃないか。違う道があったんじゃないのか、ただ自分は逃げてきただけじゃないかって思い悩んでたよ」
話を聞いていたモモがボルにグールのことを教えた。
「グールかぁ。パトが自慢気に話していたよ。懐かしいなぁ」
ボルは話を続ける。
「ある日パトは俺に一緒にいかないかって俺を誘ってきた。でも俺は断ったんだ。狼だし他の仲間のこともあったし息子のバルも小さかったし躊躇しちまった」
「断った時あいつは、やっぱりそういう風に思うよな親だったらって言って悲しそうにしていたっけな。それから何日も経たないうちに俺に何も言わずにパトは去って行ってしまったんだ」
「それからのパトのことは何も知らない」
「パトがいなくなったとき、あいつから貰ったこの時計も止まった」
話を聞いていたテツが話に入り込む。
「なぁボル。何年も月日が経ってるのにボルもバルも若く見えるのってその時計の力なのか?」
テツは不思議に思ってたことを聞いてみた。
「たぶん時計の力だとおもう。他に思いつかないからな。時計のことは聞くなっていう雰囲気だったから俺何も知らないんだ」
テツは同じ時計かどうか確かめるために時計を近付けた。
すると共鳴しあうかのように時計が光り始めた。
そしてずっと止まってたはずのボルの時計が動き始めた。
するとみるみるボルが年老いていった。
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「バルちょっと来い!!」
とボルは息子を呼んだ。
「俺はパトによってテツ達に出会うために生かされていたのかもしれない」
「そしてテツに会えたこと、そして再び時計と会えたことで俺は年相応にどんどんなっていくだろう。
そして寿命を迎えたところで俺はこの人生を終えるだろう。
バル!!俺の代わりにテツ達の力になってあげなさい。
そしてテツ達と色んな経験をしてきなさい」
「おっと話すのも辛くなってきたわい」
「口調まで年老いてきたわ。長生きするものだ。パトには会えなんだが最後にテツ達と出会えてよかったわい。楽しい人生だった。もっともっとパトとの思い出を話したかったんだけどな。テツ息子を頼んだぞ」
ボルは優しい顔のまま静かにその時を来るのを待っていた。
次第に狼達が悲しみの遠吠えが大きくなっていた。
テツは思った。
「もし、俺が時計を近づけなかったらボルはあのまま若いままだったのか」
「いや、パトはいずれ誰かがボルにあったらこうなるだろうと予測していたに違いない。だから時計を故意に止めていたのかも」
謎に包まれているので答えはわからないが、なんとなくテツはパトの気持ちがわかった。
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「父さん!」
バルも話すことができる。時計の力だ。
ボル同様首に時計をかけているがバルの時計とは共鳴しなかった。
ボルを弔いをしているみんな。
テツ達も準備を手伝っていると
「テツ。一足先にトミイの家に戻っててもいいか。やりたいことがあるんだ」
ラルはテツに聞いてみたにもかかわらず返答を待たずに狼に頼みトミイの家まで帰っていった。
残ったテツ達も弔いやバルの身支度を終えパトの足跡を追う旅に出る為トミイにお別れを言うためトミイの家へと向かっていった。
トミイの家の前につくと一足先に戻ってたラルが迎えに来て
「テツすまん。この先へは俺一緒に行けない」
「トミイさんの事が大好きなんだ。一緒に行くっていう考えもあったけど、この先何があるか分からないしトミイさんの生まれ育ったこの町で一緒に過ごそうと思ったんだ」
「なんでだ。ここまで一緒に来たじゃないか」
テツは食い下がってみたもものトミイの大事さを聞き、トミイ自身もラルと一緒にいたいと言うことを聞いているうちに何も言えなくなってしまった。
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テツはラルとの別れを受け入れ始めていたが、リンはなおラルに食い下がっているとテツの携帯が鳴り出した。
ロキからの電話だった。
「山は越えれたようだね。電話しても繋がらないから山を登ってるところなのかと思ったんだけど、何かあったんじゃないかって少し不安になっちゃってたんだよね。
で、用件なんだけど驚かないでくれよ。カノさんが危篤状態らしいんだ。
会いたくないかもしれないけど知らせるだけはしないとなと思ってさ。
一目顔を見せれるなら見せてあげたほうがいいかもしれない」
「ありがとう。考えてみるよ」
電話を切りテツはロキからの電話の内容をみんなに話した。
「家を飛び出しのに家に帰るのはなぁ」
でも「行った方がいい」
追われている身ではあるが、これがみんなの意見だった。
現在地がわからないテツはトミイに地図を見せてもらいそれから考えることにした。
地図をみてテツは驚きを隠せなかった。
途方もない距離の所までテツ達は来ていたのである。
海まで行けばマンタ君でなんとかなりそうだがベコモから海まではかなりの距離があった。
バル!迅速でなんとかならないか?」
「迅速は行ったことあるところしか使えないんだ。使えてたら父さんはパトを探しにいってるだろ?」
「たしかにそうか」
「でも通常でも速い自身はあるぜ」
地図を見る限りパトの次に寄ってそうな町はすぐわかった。
ここから何個か町を進むと大都市がある。
グールの集落を襲いに来た調査団のうちの一つがある町だった。
バルの言葉をくみカノに会いにテツ、海対策でマンタ君、陸担当バルがいくことにした。
そして引き続きパトの情報収集にリン、モモ、ジャキが次の町へと行くことになった。