選択の滝
扉を開けたテツ達は固まっていた。
そこには机に平伏しているミイラ化した人がいた。
グールは傷だらけの服だったが見覚えがあった。
「お…じ…さ…ん…」
胸にはナイフのような物が刺さったのだろう穴が空いていて床にサビたナイフが落ちていた。
部屋が明るくなってくると床には引きずって入ってきたのであろう後が残っていた。
よく見てみると亡骸は一枚の手紙を守るかのように机に平伏していた。
手紙を読んでみるとそこには、
【この部屋に入ってくるのがグールだと信じて書き残すことにする。すまんが俺は先の街へ行き集落を救える手立てがないか探しにいくことにする。サラの父親は調査団と戦うといいこの部屋を出てから行方が分からない。無事でいてくれればいいんだが。
手紙で伝えたかったのは、もしお前が俺の事を探したいと思うなら選択の滝にいってくれ。
選択の滝には一人しか入れない運命の滝と五人まで入れる試練の滝の二つがある。三回までどちらかに入れるんだが俺の先祖と今回俺が使うから入れるのは一回だけだ。運命の滝は名前の通り、自分が会いたい、やりたいと思うことに応え運命の人に会わせてくれる滝だ。試練の滝は何が起こるか分からない。ご先祖様は運命の滝を選んだからな。
どちらに入るかはグールお前に任せる。だが俺としては頼れる仲間が出来て一緒に試練の滝に入ってほしい。俺は皆の期待を背に一人で運命の滝に行くことになった。こんな辛い思いをお前にはさせたくない。仲間を置いて行くほど辛いことはないからな。
選択の滝はこの部屋の奥の扉を開けてまっすぐ行った先にある。
鍵はお前の好きな人の中にある。お前ならすぐに見つけられると思うぞ。
お前が会いに来る日が先か俺が迎えにいくのが先かどちらが先になるかは分からないけど待ってるな。
パトより】
「親父。迎えに来てないじゃないか。今から来るっていったら親父何歳なんだよ。」
グールは手紙を読みながらずっと泣いていた。
「あのぉ、グールさん。一つ聞きたいんですがこの山って超えていくことは出来るんですか?」
モモの素朴な疑問にグールは「この山を超えることは不可能だよ。この集落で行き止まりさ。でも親父のこの手紙を読む限り先にいく方法はあるって事だね。とりあえず鍵を探さないことにはなんとも言えないな。」
「俺の好きな人……」
「あっ!!」
グールはすぐに見つけた。本棚には対抗勢力として参加していた面々の妻の写真が数多く飾られていて、その写真たてにも時計の穴が空いていた。
グールは母親の写真を手に取り時計をはめ回してみた。
するとカバーが外れ中から鍵が出て来た。
「グールさん。ラルとジャキ連れて来ますので待っててもらえませんか?」
テツが二人を迎えにいくと外にはもう二人がいた。
「テツ!すごい地響きがしたけど何があったんだ?」
「詳しいことは中に入ったら言うよ。とりあえず着いて来てくれ。」
亡骸を見たジャキはさすがに怖かったらしくリンの後ろに隠れてしまった。
ジャキとラルに滝の事を説明し滝を見てからどうするか決めることにした。
扉を開けるとヒンヤリした空気が流れてきた。
両脇に並ばれている突き出し燭台の火が一斉についた。
扉と連動してつく仕掛けになってるのか幻想的な光景になった。
灯りを辿る様に奥へ奥へと進んでいくと左右に別れた滝が勇ましくそびえていた。
「これは見事な滝じゃな。これほどの滝があったとは。突き当たりに神鏡と思わせる鏡や他にも三方や灯明だと思う物もあるしな。ここは集落の守り神的役割をしていて代々守られていたのかもしれんの。顔を見せず申し訳ございませんでした。」
グールは神具に向かい手を合わせた。
「パトの息子か。お主がくるのを待ちわびていたぞ。さぁどちらの滝を進む。お主の好きにせー。パトにもそういわれておるからな。」
滝の向こうから滝が揺れるかと思うくらいの大きな声が響いてきた。
「おぉ。これは滝神様のお声かの?滝神様!他に親父から言われてる事はございますか?」
「…………。」
グールの問いかけには何も答えが返ってこなかった。
「滝神様!ワシはどうするか決めております。この集落を超えて次の場所に行けるのはこの滝のみ。テツ達を元の町に返してはただ捕まりにいくようなもの。ワシ一人で先に進むことはできません。試練の滝には五人しか入れない。テツ、リン、ラル、ジャキ、モモ。これで五人じゃ。ワシはもう歳ですから若いものに後を託します。この子達を離れさすわけにもいかん。」
「テツや老いぼれジジイの最後の頼みだと思ってワシの親父を追うことも旅の目的の一つにしてくれんかの。」
「……。」
テツが考えていると、
「テツさんはテツさんのことだけ考えてください。グールさんの事はわたしが引継ぎます。」
モモの発言にグールは目を赤らめていた。
「結論は出たようだな。もう引き返せないが異論はないか。」
「はい。ございません。何卒この子達の事を宜しくお願いいたします。」
「わかった………。」
滝神が言い終わるの同時に試練の滝の水が引いていった。
テツ達がお別れを言おうと振り返ろうとすると、
「振り返らないでよろしい。前だけ向いて行きなさい。お前達と過ごした時間は楽しかったぞよ。またどこかで会おうぞな。」
テツ達は後ろを振り向かず前を向いたまま一礼し滝の中に消えていった。
テツ達を見送ったグールは亡骸のいた部屋に戻り母の写真を見ながら椅子に腰掛けた。
「あの子達いい子じゃったよ。また一人になってしまったよ。さみしいのぉ。」
数日後グールは眠りにつくように静かに息をひきとった。