御曹司テツ
「テツ様ーテツ様ー」
執事カノの呼ぶ声がする。
「テツ様ーテツさーんテツ様ー」
テツは目を覚ました。
『おお、……………………………。んー』
名前が出てこない。
テツの前には執事の他に30人の女性が立っていた。
『テツ様いつまで寝てるんですか』
『今日は我が社主催のお祭りにいくとおっしゃっていたではありませんか』
執事の声は朝から聴くにはうるさく寝起きの悪い朝だった。
『お食事の支度ができていますよ』
『お風呂の準備もできております』
カノの言葉に続くように女性達の安らぐ声にテツはやっと動き出し、祭りの準備になんとか入っていく。
『今日はどんないいことがあるかなぁ。いひひ』
『でも毎日のスケジュールはカノが管理してるしなぁ』
朝起こしてくれた女性達。
御曹司だからといってあんなにたくさんいるわけではないのである。
そしていつもいいことがあるかなぁと思うのだが、なにもない一日など最近ないということはテツ自身わかっていた。
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『いってらっしゃいませテツ様』
『お戯れにはご注意を』
カノのうるさい声の中テツは祭りへと向かう。
注意を促したカノの思いはすぐに儚く散るのである。
祭り会場を回っていても、
『テツ様ーテツ様ー』
テツを取り囲むように人集りができていく。
ボディガードが決してテツに当たらない様に守る。
だがそんなことなどお構いなしに、
『俺に構うなボディガードなどいらない!』
いつものテツの罵声が祭り会場を包み込んだ。
するとあれよあれよと言う間にテツの後ろには長蛇の列が出来てしまっていた。
出店に寄り、たこ焼きや色々な物を買っていくのだがその度に店員がテツの近くに集まってくるのである。
『今日は楽しい日だなぁ。やっと俺にも春が来たかな』
能力に気づく前はテツはそう感じていた。
だが必ずいつもテツの周りに女性だけが集まってくる。
おかしいと思わない人間などいないぐらいに……。
振り返ると一つの結論が生まれる。
共通していること。
それは触れているのである。
そして、その日初めて触れた女性は決して離れようとしない。
惚れさす。
落とし屋テツの誕生である。
そう、朝起こしにきていた30人の女性達は毎日最初に触れた女性。
祭りで出来た長蛇の列は以前に触れたことのある女性の列だったのである。
テツがこの能力を得てから1ヶ月が立とうとしていた。
『この能力を生かさない手はない』
『存分に楽しんでやる』
テツの中で能力を謳歌するということしか頭の中にはなかった。
『お戯れにはご注意を』とカノがうるさいほどいうぐらい、テツは女性とは無縁だった。
ガラッと180度テツの人生は変わってしまった。