繋がり
「これはいかんのぉ。普通だったら治るまで時間がかかるぐらい状態は悪いぞ。」
「覚悟の坂を登って来れて本当によかったのぉ。」
モモの足の痛みは相当酷く安静が必要な状態だった。
「だが心配はいらんぞ。清見の池の力ならすぐによくなるじゃろ。」
「調査団が来る前はこの池の水のお陰で怪我人はおろか病人もでなかったという話じゃからな。現にわしもこの歳まで生きて来れたのは池の力じゃと思っとるからの。」
「献上品となったのもここの集落が長寿だという噂から池が注目されたんじゃからな。」
グールは自分がモモを看病するから皆はゆっくりしてきたらどうだと言って来た。
でもリンだけはエロジジイは何をするか分からないという理由から頑なに断り自分が看病すると言い出した。
リンに滅法弱くなってグールも「しょうがないのぉ」と仕方なく諦めた。
テツは、ゆっくりさせて頂けるのならせめて何か手伝えることはないか?とグールに聞いたところ、それならばとこの集落の事を調べているが岩場の資料室の上の方に置いてある書籍が取れなくて読めなくて困っていることを知った。
テツ、ジャキ、ラルは資料室に向かうことにした。
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そびえたつ岩壁に三人は驚いていたが、奥への道が開ける様子にさらに驚いた。
ジャキは口を開いたまま固まってしまった。
中に入ってみるとそこかしこに本が散らばっていた。
「読んだ本を積み重ねていったらこんなことになってしまって。」とグールは申し訳なさそうに言った。
グールがここを見つけた時にはもう散乱状態だったらしい。
真実かどうか詮索するのはテツ達はやめた。
元々は綺麗に整頓されていたのであろう。
区分けされやすく棚が並んでいた。
まずはジャンル別に分けることから一同は取り掛かった。
「任せてくれ、本屋で一日働いて経験を生かしてやるよ。」
とテツは一回の働いた経験を誇らしげに言った。
本を分けていてテツは目を丸くした。
「なぁ。グールさん。ここにあるのって全部パトという著作者の名前が刻まれているんだけどパトって人って。。」
「おれパトって人が書いた本リクシャーで見つけたんだけど知ってるかい?」
「知ってるも何もパトは俺の父親の名前だ!」
「なんだ親父の本は他のところにもあったのか。どんな本だったんだ?」
「時計の本なんだけどさ、二冊ともパトって人が書いてたんだ。おれこの時計のことが知りたくてさ調べてたんだ。」
そういうとテツはグールに自分の時計を見せた。
「お前!!!この時計どこで手に入れたんだ。これは親父の時計だぞ!!」
グールはテツの腕から時計を外し裏のカバーを外した。外したカバーの裏には【パト・グール・エアリー】と文字は薄れていたが刻まれていた。
「やっぱりそうだ。わしが子供の頃いつも親父の付けてる時計が格好良くて、親父が対抗部隊として家をあけるってなったときその時計をくれないかと聞いたことがあってな。親父は物凄く大事なものだからお前が大人になってからな。ここを見ろお前の名前も掘られてるだろ?俺の今のお守りみたいなもんなんだ。ごめんな。ってそういって貰えなかったものなんだ。その時計は。」
「なんでお前が持ってるんだよ。なんでだ!!」
グールはテツに一度も見せたことのない形相で迫って来た。
テツは時計を手にした経緯をグールに話した。
「そうか。どこで手にしたかもわからないのか。いつの間にか持っていて、臭いのは飛行場の荷物受け取りのコンベアの所って事でそれも明確ではないということか。」
何か手掛かりがあるのかと思ったグールはすこし淋しそうだった。
作業は最初重苦しい空気につつまれていた。
ジャキが下に散らばっている本を所定の場所に戻し、ラルが脚立を登り埃まみれの棚の上に置かれた本をグールに渡すという作業分担だった。
当のテツは小さい脚立を使い中段の乱雑に並んでいた本の整理を行っていた。
「ここにある本って分かり易いね。どこに戻せばいいか棚と同じ番号ふってあるし何で爺ちゃん整理できなったんだよ。」
ジャキの問いにグールは集中している風を装い聞かないふりをしていた。
グールはいわゆる片付けられない人なのだ。
ある程度片付けを進めた所でラルが不思議なマークを見つけた。
「あのさ、ずっと気になってはいたんだけどここから棚の上見えるじゃん。棚の置か方がおかしいんだよな。」
「まだ何も入ってない棚あるじゃん。そこに向けて他の棚が矢印を示すように配置されてるんだよな。俺の気のせいかな?ちょっと見てくれないか?」
テツ、ジャキと二人とも登ってみても同じ様に矢印になってると感じた。
何もまだ置かれていない棚には【清見の歴史十選】と書かれていた。
「そんなもの、見たことないぞ。片付けつつそれらしいものを見つけたら教えてくれんかの。」
片付けに加え【清見の歴史十選】探しも始まった。
「う〜ん。一冊も出て来んのぉ。お主ら時間も時間だしこの辺で切り上げるかの。十選探しはまた明日しよう。」
この日は片付けだけで十選は一冊も見つけることができなかった。
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グール達一向が家の前に着いた時いい匂いが漂ってきた。
家に入るとテーブルには出来たての料理が並んでいた。
「なんじゃ、なんじゃ、誰が作ったんじゃ。こんな料理見たことないぞ!」
キッチンからエプロン姿のモモがこっそり現れてぺこりとと頭を下げた。
「グールさんがいなかったら私大変だったってリンちゃんから聞いて。。何か恩返しをしようと思ったんですが私これくらいしか出来ないので。。お口に合うか分かりませんがどうぞ召し上がってください。皆も疲れたんじゃないですか。冷めないうちにどうぞ。」
母親のような問いかけにグールはエアリーの事を思い出し涙が自然と出てきていた。
「モモちゃんありがとね。誰かが作った料理なんて食べるの母ちゃんに作ってもらってた時以来なもんでさ、モモちゃんと母ちゃんダブって見えちゃった。ごめんね。。いただきます。」
グールの答えにモモは満面の笑みで返した。
歳とは思えない食いっぷりのグールにモモは背中をさすりながら、
「グールさん。そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。ゆっくり召し上がってください。」
グールはこの食卓が楽しくて仕方がなかった。楽しかった頃を思い出し一人に慣れすぎてしまったんだなぁとそんなことをしみじみと感じていた。