神秘の山
バラカ山を登り始めた一向。
登り始めは平坦な山道ではあったが岩がゴロゴロしていて足場が悪く平坦とはいえ進んでいくのは一苦労だった。
時折急勾配な岩を手で探りながら懸命に足場を探さなければいけない崖があったり、かと思いきや足場のぬかるんだ急斜面を下ったりしないと進めなかったりと皆体力を奪われていった。
これは誰も登ろうとしないと言われているのが皆痛いほど肌で感じた。
モモはテツにつかまったり引っ張りあげてもらいながら進んでいたものの息は早々にあがっていた。
リンも大丈夫とはいってるものの疲れがきていることは皆気付いていた。
しばらくすると人工的な橋がかかっていた。
崖崩れか何かで道が遮断されたところに不恰好ながらしっかりと作られていた。
ぐらぐらして皆震えていたがなんとか渡ることが出来た。
休むことをさせてくれずに橋を渡り終えると絶望とも言えるぐらいの今までとは桁外れの急勾配の岩がゴロゴロしている坂が待っていた。坂?絶壁といっても過言ではないくらい垂直だった。
ラルが最初にこの坂に挑んだ。
大の男が挑んでも一筋縄ではいかないほど険しかった。
だが不自然な事に足場としてちょうどいい場所の岩が変色していた。
ラルは不思議に思いながらもなんとか登ることができた。
すると、ラルは固まった。
「みんな早く登ってこい。」
ラルの声は生き生きとし希望に満ちた声だった。
ジャキは軽いせいか身のこなしよく野生の猿かのようにすらすら登っていった。
「ジャキでも行けたんだから次は私がいくわ。」
とリンも続いていったのだが丁度登りきろうとしたとき岩が崩れた。
あわや下にいるテツとモモにあたるかと思うぐらい大きな岩が転がってきた。
登ったリンはというと辛うじてラルの手につかまり引っ張りあげてもらいなんとか登ることができていた。
岩が落ちてきたことによりモモは不安がっていた。
「テツさん、実は黙っていたんですがここに来る途中で挫いてしまって右足の感覚がなくなってきてるんです。」
テツはモモの足をみてみると、みるみる足が腫れ上がっていってるのが分かった。
「モモ。どうしてこうなるまで我慢してたんだよ。気付かなくてごめんな。」
「いえいえ、そうじゃなくても迷惑をおかけしてなんとかついてきたのに、これ以上テツさん達に迷惑かけれないと思うと言い出せなくて。。」
「ごめんよ。モモ。。」
テツはラルにモモのことを話してみたが、ラルそして登り切った二人もそこにいないで登り切ったほうがいいという。
「上に何があるんだ。こっちは休ませたいのに。休ませたい?こんな辺境なところに休めるところがあるっていうのか?」
テツはラルに聞いてみるの。そうだ!詳しいことは登ってからだ!と返ってきた。
それならばなんとしても早く登ってモモを休ませないとなとテツは思った。
テツとモモ縄で縛る。
足場となりそうな岩を探そうとすると岩が話しかけてきてるかの如くテツに光示してきたつかまるところが突出しているように思えた。
テツは無我夢中で登っていたので、懸命に光をたどるように登り切った。
「テツお前すげーな。そんな力があったとは思わなかったぜ。」
「うんうん。」
とモモを背負って登ったのにすぐに登ってきた様子に皆感心していた。
そんな皆の様子に疲れ切っていたテツは、モモとのロープを解き周りを見回した。
「なんだこれは!?」
登り切った先はどこまであるのかわからないほど広い池が一面に広がっていた。
池の真ん中に遠くて分からないが家らしいものが一軒建っていた。
一向はその家へと歩き出した。テツはモモをおんぶしながら向かっていく。
ジャキが絶対にいうなよ。と言わんばかりの顔でこちらをみてきた。
テツは笑顔で大丈夫だよとわかるようにジャキにアイコンタクトをした。
モモは坂を登ってるときからずっと顔を赤らめっぱなしだった。
池は澄んでいてこの世のものとは思えないほど美しかった。
池の真ん中の家に続いている橋に着いてリンが、「これって私達が来る前に通った橋と似てるわね。家があるしこの山ってやっぱり誰か住んでいるのかもね。」
リンが話していると橋の向こうに座り込んでいる人影がみえてきた。
橋の向こうにいた人もこちらに気付いたのか驚いた様子がテツ達にも伝わってきた。
テツは人影を見るなり走り出していた。
その人は仙人かと思わせるぐらい白ひげがのびていて腰が曲がってる老人だった。
「お願いします。休ませてください。あそこにいる子が足を挫いてしまっていて看病してあげたいんです。」
「まぁまぁそう慌てなさんな。よくあの坂を登れたものだ。ささぁ、中にあがりなされ。
老人は快く招き入れてくれた。」
出された水が超絶に美味かった。疲れが一瞬で飛んでいくかと思った。
「この池はね清見の池【きよみのいけ】といってね色んな効用があって万病に効くと言われててね、神聖な水として昔こぞって献上品とするためいろんな人が汲みにきていたんだよ。」
「さっき、よくあの坂を登ってこれたねといったじゃろ?あの坂は通称覚悟の坂といって、やましい心、油断をしている人には試練を与える岩と言われているんじゃよ。」
「爺ちゃんちょいちょい語尾おかしくなってるね。おかしいや。」
とジャキが笑い始めたが、リン達が今は黙って聞いてなさいと叱るとジャキはシュンとなり黙って話を聞き出した。
「ジャキちゃんよ、気にしてないぞ。爺ちゃんの話は長いがもう少し付き合ってくれんかね?」と爺ちゃんがいうと、こくりとジャキはうなづいた。
「そうじゃ。自己紹介しておらんかったの。わしはグールという。わしの事は興味ないと思うから続きをいうぞ。
で、覚悟の坂じゃが悪事を働こうとする輩が多くなってな誰も登ることが出来なくなったんじゃよ。その風潮からこの山は誰も登れない山というのが定着したんじゃよ。まぁ条件の満たしたものは簡単に登れるんじゃがな。」
グールの話を聞いていたテツが何個か質問した。
「グールさん山の下ではどうなってるのかとかわかるんですか?」
「ちょくちょく様子を知りたくてたまに降りたりしてたからの。でも最近は歳だから降りてないのぉ。」
「あと。。」
と覚悟の坂登ってる時の様子をグールに説明した。
「おおおお。それはすごい。」
「まずはラルさんな。覚悟の坂を見て俺が一番に登って安心させてあげようという責任の心があって、岩達は応えてくれたんじゃろな。やましいことも一切考え取らん。」
「で次がテツさんな。あんたは仲間思いの労りの心があって一人でも厳しいのに仲間を担いでという限界への挑戦もあいまって岩達がラルさん以上に応えてくれたんじゃろな。」
「ジャキちゃんはあれじゃな。なにも考えてなく無心じゃったんじゃと思う。」
ジャキの理由には皆笑った。
「で、最後リンちゃんやな。あんたはジャキちゃんが登れたという油断から最後の最後で気持ちが緩んでしまったんじゃろな。」
そういい終わると失敗したのぉとリンのお尻をグールは触った。ただの変態ジジイだ。
案の定グールは平手打ちされ頬が真っ赤に腫れ上がる。
「すまぬ。すまぬ。まぁ今日はゆっくりしてってくれ。」
というグールの声にもリンは鋭い眼差しでグールを、凝視していた。