船出のとき
ジャキを送り宿屋に戻るとモモ手製の晩餐会が始まっていた。
常連客もいて皆モモの料理に舌鼓を打っていた。
あるものは「モモちゃん、婆さんの味超えてるよー美味い」
あるものは「いやいや、婆さんにはまだまだ敵わないんじゃないか?」
それが次第にエスカレートしてどっちが美味いか多数決で決めようじゃないかと言い始めた。
モモが慌てて「どっちがとか競争しているわけではないので皆さんお食事を楽しんでくださいね。」
「ごめんごめん。つい美味しかったもんだから。困らせてごめんよ」
常連客はぺこりと頭を下げた。
「もぉ、あんた達と来たら」とお婆さんはコツンと言い合ってた二人にゲンコツをした。
その光景に皆笑い始めた。
テツはロキに時計なら交易をしてる町に骨董の町オスナに行ったらどうだ?と言われた。
次の向かう先オスナのこと、ジャキのこと、本屋で見つけたパトの情報などを食べ物に囲まれながら皆に伝えるテツ。
「あっ。そだ!」テツは結局ジャキからお金を返してもらえてないことに気づく。
「ジャキに会ったのよね?なんで返してもらわなかったのよ。なんの為に探しに行ったのよ。」
リンのお決まりの小言が始まった。
「まぁリンさん、そこまでにしなさいな。私も微力ながらパトについての情報収集お手伝いさせていただきますし、なにか合ったら援助もしますから。」
その言葉に「本当ですか?テツなんかといないでロキさんとこにずっといようかなー。」
と、リンは目を輝かせた。
ロキはさらに続けた。
「あと、皆何か連絡を取り合うとき不便じゃないか?もしよかったらこれ使わないか?」
とロキが愛用している電話を見せて来た。
「これなんなんだ?」
と一同は首を傾げた。
この時代置き型の電話が主流で携帯は普及してなかったから当然と言えば当然か。
さすが貿易の町、最先端のものが集まってきている。
すぐに連絡が取れるようにと人数分の携帯が渡されると講習会が始まった。
皆苦戦しながらロキに携帯の使い方を習ってると、漁師のガジが血相を変えて宿屋に入ってきた。
「やっぱりここでしたかみなさん、すごい数のメイドに囲まれた男がこの男を知らないかと、テツさん!あんたの写真を見せてきたんす!知らないといいましたが町中隈なく探し回ってます!」
「はぁ、はぁ、いつここにくるかわからないっすよ。」
ガジの報告は一足遅かった。
そうドクが宿屋の前まで来ていたのである。
「テツなにやってんだ!帰るぞ。色々聞きたいこともあるしな。」
「ドク、すまない追わないでくれ。俺にはまだやりたいことがあるんだ。」
一言二言交わしたところでリンがテツを引っ張り宿屋から逃げ出した。続くようにモモとラルも逃げ出した。
ドクはロキの秘書達に道を塞がれ追いかけにいくのに時間がかかってしまった。
「兄ちゃんたち乗りなよ!」
ドクから逃げていたテツ達に手を振り呼ぶ声がする。
声の主はジャキだった。
「ガジのおっちゃんから話を聞いたんだ。俺にも何かできねーかなって思ってさ。」
恥ずかしいのか鼻を指でこすっている。
テツ達は急いで船に乗り込み出港の準備に入った。
テツが「ジャキ?お前金は貯まったのか?ほんとにこの町を出て行くのか?」と聞くとジャキが、「金なら兄ちゃんから盗った金で目標額は行ったんだ。でもいざ出るとなると勇気が持てなくてさ、そんな時兄ちゃん達の追手が来たって聞いてさ踏ん切りがついたんだ。」
ジャキの素性を知ってるだけに返せというものは誰もいなかった。
テツ達がいざ出港しようとしたときだった。
追いかけて来たドク、ロキ、そして出不精のジャキの養父までもが異様な様子に港にやってきた。
「こら!ジャキ!なにやっとんじゃ!なにやらかす気や!漁以外に船使うんじゃねー。」
「うっせぇ、くそ野郎。お前の顔なんてもう見たくないんだよ。じゃあな。」
「あ!?なんだその口の聞き方!さっさと戻ってきやがれ。さもねーと」
続きを言いかけた次の瞬間ジャキの養父は海へ落ちていた。
「さもねーとなんなんだよ。男の大事な船出を邪魔するんじゃねー。すっこんでろ。」
ロキは今までためていた養父への思いを拳一発に込めた。
「ジャキなにもしてやれず、すまなかった。お前はお前の好きなように生きろ。何かあったら頼ってこい。っていってもお前のついて行きたいって人はもう見つけたんだよな。テツさん!ジャキのことよろしくお願いします。」
そういうと船に向け何かを投げ入れた。
「携帯!?」
「あぁ、もしかしたらお前の分も必要になるんじゃないかなと思ってよ。持ってたんだ。」
「おっちゃん!!」
「おっちゃんじゃない!ロキさんって言いなさい!」
「おっ‥‥ロキさん今までありがとうございました!いってきます!」
「おう。」ロキは目頭が熱くなっていた。
ドクの仲間が船を見つけテツ達の船を追おうとしたがここリクシャーは暗礁地帯としても有名な町としても知られていて、波の腕ではこの海を超えていけない。
あまり船の大きさは変わらないのにジャキ達の船がどんどんドクの船から離れていく。
「ドクさん、これ以上追うのは無理です。座礁してしまいます。」
「ちっ、引き返せ!違う道でテツを追うぞ。」
ドクの船が町に引き返しているのを見たジャキが、「へっ。この海を舐めてもらっちゃ困るよ。これでもう安心だよ、兄ちゃん達。」
兄ちゃんと言われることにまだ違和感を感じながらもテツ達は新たな町に向け出発した。




