桐島、銃持つのやめたってさ
私の住んでいるのは田舎。
田舎と言っても端から端までにはかなりの濃淡があり、同じ中学校学区でも平地側には住宅が立ち並び、いくつかのスーパーマーケットがしのぎを削り、バイパスのインターチェンジまである。
しかし今から話題となる山側の端は、ゆるゆると標高数百メートルほど登ったあたりで集落の過疎化が激しく、今では数世帯が住むのみとなっている。
切立った山を切り崩し、石垣を組んで作ったわずかな敷地に昔ながらのどっしりした家を構えている。
友人のひとりが他所からその地に移り住んですでに10年近く経つ。
今日は、天高く気温も平地と摂氏2度ほどは違うだろうというその友人宅に行ってきた。
昨夜は近くの8軒ほどが集まって定例の寄り合い&飲み会だったそうな。ここからはその友人より聞いた話。
その時にまず出た話題がイノシシ。
この、科学万能の時代に彼らが一番困っているのがイノシシ。かなしいよね、一番のトレンドがイノシシ、ってのも。
「ジャガイモなんてあっという間にほじくり返されちまうわ」
「しかも石垣まで崩い(し)ちゃって、まいるわ」
「あぶんなくてしょんねー」
と、めっちゃ方言の飛び交う中、誰かが声高にこう言った。
「○○ちゃんに頼めば、いいらー」
○○ちゃん、と言う名前がよく聞き取れなかったんだけど、いかにも他のみんなは知ってる様子だったので、友人はあえてその名を問い直すこともせず、黙って話の続きを聞いていた。
「ああ、そうだそうだ。○○ちゃんならすーぐ撃ってくれるら」
「いのししだってすーぐ、見つけるらえー」
「サルだって何だって、足跡やら食い残したもんやらフンやらで、いつ頃何匹でどこからどこへ行ったとか、すーぐ分かるだで」
「だなー」
どうも、○○ちゃんというのは銃を持たせたらこのあたりでも比肩する者がいないほどの狩りの名人、らしい。
○○ちゃんが山を駈けめぐるたび、その後には鳥獣類の死骸が山のようにできあがるのだと。
しかし、彼は食べるものしか狩らないらしく。
なんだか、デルスウ・ウザーラをほうふつとさせるよねー。
すべての生物を「××な人」と擬人化する、ゴリド族のひとり、森に生きて、森と生きる人。
そんなイメージだよね。しかもこの近代日本の中、銃を持って歩きまわれる人のひとりらしく。
しかし、本人はその場にいないのだそうで。
とにかく、名前ばかり飛び交っていたらしい。
「そうだよ○○ちゃんに頼まざーえー(頼みましょうよ)」
となった時、誰かのひと声に場は静まった。
「○○ちゃん、銃取り上げられちゃったってよー」
「「「ええっ!!」」」
「なんでだえ」
「鹿を撃ってさ、それんバレちゃっただってさー」
「「「「……ああーー(納得)」」」」
友人いわく
「その、なんで『ああーー』なんだかさっぱり分かんなかったよぅ!」。
それにしても、イノシシ、っていうところもあまりに山の中すぎて、なにげにショックだったんだがね。
と、山に住む友人はさらりとそう語ってから
「今年はね、イノシシに石垣壊されるのは嫌だけど、またジャガイモに挑戦するよー」
と明るくそう語った。
話を聴いているあいだに思い出したのは、ついこの頃みた、『○○、部活やめたってさ』だね。
うん、こうしてその場にいない人で盛り上がることって、案外多いんだよな。
と、何となく身に沁みて思いました。山のどこか梢の先から、サンコウチョウの鳴き声が響き、やっぱりここは山奥なんだなー、って少し感じてしまっただよ。
あ、このお宅は数年前の早朝、居間のど真ん中にマムシがいて、追い払おうとしたとたん、書棚の中に逃げ込んでしまい、それ以来姿をみていないのだって。
うちはね、もうすこーしだけ、都会です。と言っておこう。
それにしても○○ちゃん、どんな人なのか、気になり過ぎる。
きっと銃がなくとも、自家製の弓矢で狩など行っていそう。
この人がメインとなった映画はきっと
「桐島、銃持つのやめたってさ」
だろうね、と友人と話してふたりで盛り上がっていた。
そんで、ラストの場面が鹿、道のまん中に横倒しになっていて、すでに息がない。
首筋に自家製らしい矢がふかぶかと突き刺さっていて。
集まっている連中が、顔見合わせて、つぶやく。
「……桐島……」そして暗転。
うん、映画的に出来あがってるね。ぶらぼー。




