キリバンをゲットする簡単なお仕事です
中二になるむすめと一緒に、とある美術館に行く。
私にとっては久しぶりの美術館再訪であった。
むすめは平日なのに、インフルエンザのせいで一昨日の午後から学級閉鎖だった。
しかし体調は絶好調、もちろんインフルどころか風邪ひとつひいちゃいない。
それでも、ちょっとやましい気分で館内に入る。
美術館は大きく分けて有料(やや高額)の企画展、有料の収蔵品展、無料の貸しギャラリーでの季節展示、となっている。
今回用事があったのは、無料貸しギャラリーでの展示。
知り合いの作品を観るために出かけて行ったのだが、せっかくなので有料の企画展も見ようと思い立ったのです。
館内に入ってすぐ、フロアに別企画の展示があったのでまずその作品をじっくり観ようと傍に寄って行く。
その時、視界のはしににこやかな中年男性、しかも背広をちゃんと着たオジサマをとらえ、つい足が止まった。
オジサマはにこやかな表情のまま、こちらを見つめている。
ひと違いか何かの勘違いかも、と思い、気にしないことにして更に作品に近づいていく、と、かのオジサマがつかつかと寄って来て、言うには。
「すみません。●●美術館の総務課の××と申しますが」
え? ここのスタッフの方か。私と知り合いだったのか? とあやふやに頭を下げたところに彼はこう続けた。
「企画展にお越しですか?」
まあ、後から回ろうと思っていますが……と答えると、なんと彼はこう続けた。
「実は……本日◎◎展開催から一万人目の来場者が出る予定なんですが、それが……あの……もうすぐなんですよ」
「はあ……」
「でね、もしお時間ありましたら先に企画展を観て頂けると……」
「……ああ!」
察しのよいオトナな皆様ならお気づきかと思います。そう、暗に、一万人目のお誘いをいただいた、という感じ?
突っ込んでお聞きしてみたら、軽く記念イベントを開催する予定なのです、と。
しかも、公の場にその記事が出ます、ということで。
まずいです。それはまずい。
何と言っても、本日に限って、「ガイシュツキンシ」の女子を連れ歩いているとあって、メディア露出厳禁だったのです。
本当にもうしわけありません、と素直に事情を話してキリバン辞退。
総務課の方は「ああー、そうなんですね」ととても残念がってくれた。
後ほど、企画展に回ろうと通路を進んで行ったところ、先ほど声をかけてくれたオジサマに再度出あう。
「先ほどはどうもありがとうございました。今から企画展に?」
と言うので、はい、と答えてから気になって
「一万人、出ました?」
と聞いたら、にっこりと
「おかげさまで、一万人突破しました、ありがとうございました」
とのこと。よかったですねー、と声をかけて別れる。
後から、その美術館のサイトで確認してしまった私。
一万人目がやや恥ずかしげに画面に収まっていました。
裏ではいろんな努力や創意工夫がうごめいているのですね。
世の中のものごとを作っている人びとすべてに、お疲れさまですと肩をたたきたい気持ちですわ。




