執念深く文章を盗られたことを思い返す曇天の日
いつまでも執念深く忘れずにいることが、確かにあった。
ふとしたはずみに思い出す。
今日も、そうだった。犬を散歩させるため、黙々と歩いていた時。
黒々とした山のシルエットが、今にも降り出しそうな空をくっきりと丸く切り取っていた。
まだ文章でおアシを稼ぎたいなんて、思ってもいなかった頃の話。
いや、もっと昔からわずかに夢見ていたかも。
というか、その夢はあまりにも漠然としていて、ワカモノがよく言う
「大きくなったら宇宙飛行士になる」だの
「ハンバーグをお腹いっぱい食べる」だの
「白い馬に乗った王子様が迎えに来て玉の輿に乗る」
だのそんな部類の話だと感じていた。
何となく書くことだけは止められず、かなり昔からサイトを設置したりブログをいくつか登録して日記代わりの短文をつけたりしていたのだが。
ある日、自分の記事がまるまる数行コピペされ、他人のブログに使用されていたことがあった。
2007年の秋、富士山五合目まで出かけた文章の一部。
なぜ気づいたのか記憶はやや不鮮明だが、その当時(今で言うところの)エゴサをいろいろと試していたらしく、本名検索した結果を別のブログに載せたこともあった。
そこから、長い文章を検索できるかも試したのだろうか。
無断で使用した人のブログを見たが、彼(多分男性)はバイク乗りだったようだ。
該当記事は、秋のある日富士山五合目までツーリングに出かけた時の様子だった。
目的地に近づくまでの景色を描写した文章が、ほぼ一致していた。
長文で検索した時も、私は実は密かに思っていたのかも知れない。
「もしかして、これ、名文かも??」
なーんてね。
しかし、検索結果にまるっきりあかの他人、会ったことも話したこともない人のサイトとして自分の文章をみつけてしまった時というのは、嬉しいなんてわけはなく、ただ、怒りと薄気味悪さしか感じなかったのは確かだったね。
相手に抗議して、日付の古さを証拠に相手の文章を削除してもらうよう要請するということも、もちろん考えた。
イヤミっぽく、相手のブログに「わたしの文章を『引用』して下さってありがとう」とコメントを書くことも、考えてみた、だが……
いろいろと思い悩んだ結果、何もアクションせずにそのまま放置にまかせてしまった。
いくら著作権は書いた当人にあるといえども、自他共に認める素人の文章、しかもブログ記事ということで、そこまで抗議したり他に訴えたりする気力もなかったのかも知れない。
それからすでに8年も経って、なぜか急に今日、散歩中に記憶の山の中から蘇ってくる、というところが何とも自分らしい。
自分のブログについては公開したままだったので、早速帰宅してから記事を探して読み返してみた。
あれ?
そんなに……卓越した文章とも思えないなあ。
ところで彼のブログはどうなったのだろう? と気になって探してみる。
すでに引っ越したか削除したのだろうか、見当たらなかった。
今、彼に会えたら面と向かって聞いてみたい。
なぜ、そんなことをしようと思ったのか?
「いやー、あの文章があまりにも素敵だったので」
と、ぽりぽり頭を掻いて恐縮するのだろうか。
だったらちょっと許す。いや、どうしようか、それでもいっときの逡巡はあるだろうな。
「え? 自分のみた景色と同じだったのでちょうどぴったりなものがあれくらいしかなくて」
と、真面目に返されるか。
それとも沈黙か、逆切れか。
「オレの方が先に書いたんだ! 日付なんていくらでも変えられる!」
一番考えられる可能性は、黙ったまま、どこかの言い訳文章サイトから探してきて、そのままコピペして返してくる、というところかな。
とにかく……安直なコピペ、文章の盗用はやめんかいわれぇ!!
と、突然窓を開け、雨まじりの空に向かって声を荒げて、自宅のわんこにさえ不審者扱いされかねない今日の私なのでありました。




