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近所でおそうしき

特に何を訴えたいわけではなくほんとうにつらつらと。

 歩いて家を出る。強い西からの風に乗ってクラクションが長く響く。はっと顔をあげて、かき乱された髪が目に被ったのを空いていた方の手で払い、また地面を向いて歩き出した。


 表通りに出ると、さびれた商店街のそこかしこ、陽だまりの中地味な装いの人々が思いおもいに集い、立ち話に花を咲かせている。さすがに大声で笑う者はいない。咲かせる花も時期にふさわしい白い小花程度のようだが、通りにはいつにない、可愛らしいお祭りのような空気が漂っている。


 にわか仕立ての帳場に口ごもりながらも挨拶を述べて香典袋を差し出すと、これもまたにわか仕立ての受付が神妙な顔をして頭を下げ、それを受け取り、封を開ける。すぐに中身を確かめるのはこの地方の習慣だ。誰もが自身のしごとに忠実に、今日という日にふさわしい所作をこなしていく。


 帰り際、少し先にまた人だまりを見る。どの顔もあまり表情を動かすことはないが、あまり深刻そうではない。時おり目もとに慈愛を含ませて亡くなった人の家に目をやっては、また何か話し続けている。近所で愛され親しまれた人の最期にふさわしく、人々は陽だまりの中で故人を偲んで話し続け、また聴き続けていた。


 通りを抜けて土手の道に出ると、急にまた風が強く吹いた。手にした紙袋が大きく弧を描く。

 髪が目に入らないよううつむくと、土手のまん中あたり、ちょうど長い枯れ草が吹き払われ、深い紫色が陽射しの中に姿をみせた。どこかの庭からこぼれたムスカリが、春を知って花を咲かせたようだ。一瞬、香りを感じたかと思ったが、それは自分も、優しい人の思い出をほんの少しだけ頭に浮かべていたからだろうか。

 さらに目を移すと、いつの間にか菜の花がちらほらと流れを彩っているのに気づいた。


 季節は巡る。

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