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棺桶少女  作者: 海月大和
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工房の中で/木工屋の男

 あるとき、少女は木工屋の工房の中にいました。


 棺桶に付いていた木の車輪が、荒れ道のせいで壊れてしまったのです。


 雑多な工房の隅っこで、手作りの椅子にちょこんと座り、少女は木工屋の仕事を眺めていました。椅子の隣には、車輪を外された普通の棺桶がありました。


「棺桶用の車輪だァ?」


 少女が工房に来て、注文を口にしたとき、木工屋の男は怪訝な顔を隠しませんでした。それから、男は眉間に皺を寄せて唸りました。


「その棺桶、中身は空か?」


 少女は首を振りました。


「じゃ、何が入ってる?」

「ヒトよ」

「死人か」

「違うわ」

「そうか」


 問答を終えた木工屋はなにやら考え込み始めました。


「ねぇ」

「あン?」


 少女は小首を傾げて尋ねます。


「中身が何かなんて、車輪作りに関係があるの?」

「なに言ってやがる。大アリだバカヤロウ」


 ぴしりと言い放った木工屋は、パイプを懐から取り出して銜え、少女に言いました。


「よぉし、分かった。作ってやろうじゃねぇか。……入んな、お嬢ちゃん」


 棺桶に付けられた車輪を調べた木工屋は、さっそく図面を引き、木を切り出し始めました。少女は用意された椅子に座って、それを眺めていました。


「木を削ってン十年になるが……」


 鑿(ノミ)を片手にパイプを吹かし、木工屋は呟きます。


「それでも棺桶に付ける車輪なんてのァ、初めて作るぜ」

「そう。迷惑?」


 床に届かない足をぶらぶらさせて、少女は尋ねます。


「いいや」


 切り出した木を削りながら、男は答えました。


「たまにゃいい」





 少女は木工屋が作業をしている間、どこにも行かず、ずっと男の仕事を見ていました。


「飽きねぇか?」


 男は削った部品を睨むように見ながら、後ろにいる少女に向けて言いました。


「ううん。面白い」

「そうか」


 外が暗くなっても、少女はずっと木工屋の仕事を見ていました。


「腹ァ空かねぇか?」


 ランプの明かりを頼りに車輪を組み上げながら、男は飲まず食わずの少女に聞きます。


「ううん。平気」

「そうか。……眠くねぇか?」

「ううん。平気」

「そうか。眠くなったら無理しねぇで寝ろ」

「うん」


 翌朝、目に隈を作った木工屋は、出来上がった二組の車輪を棺桶に取り付け、美味そうにパイプを吹かしました。


「おら、出来たぞ。持ってけ」

「ありがとう」


 昨日と何一つ変わらない少女は、お礼を言い、コインの詰まった袋を差し出します。

木工屋の男は腕を組み、ふんと鼻を鳴らしました。


「いらねぇよ。ガキのオモチャ作って金なんざ取れるかってんだ」

「いらないの?」


 少女は袋を差し出したまま、小首を傾げて尋ねます。


「いらん。その代わり大事に使え」


 パイプを口の端から端へ動かして、木工屋はそっけなく言いました。


「悪い連中にとっ捕まらねぇように、気ぃ付けて行け」

「ありがとう」


 コインを仕舞った少女は、木工屋に背を向けます。


 ころころと車輪を転がし、棺桶を後ろに連れて、少女はまた歩き出しました。


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