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ある日突然、彼女が出来た。

ある日突然、彼女が出来たワケ。

作者: 心花

*『ある日突然、彼女が出来た。』の続編です・・・。

「ねぇ、あんた、私と付き合いなさいよ」

・・・あいつとのきっかけは、そんな、色気も素っ気もない言葉だった。


そして


「まぁ、いいよ、お前でも。暇つぶしくらいにはなるだろう」

・・・俺も、そんな最悪な返事をした----



あれから一週間。


あいつが俺に惚れていることがわかった。

そして、俺もあいつに・・・惚れてしまった。


つまりふたりは…暇つぶしなんかではなく…

両思いのカップルということになるのだが


なんせこの一週間、ほとんど“おはよう”の挨拶しかしていない。


付き合うことになって、おはようしか会話がないカップルなんて…いるのか?

アドレスすら知らないとか…ないだろ。


だから今日は、あいつと恋人らしいことをしてみたい。密かにそんなことを思いながら

俺は彼女との始めてのデートの待ち合わせ場所へと向かっている。




待ち合わせ場所の側までくると、俺に気付いた彼女は 顔を赤くしながらパッと笑顔になった。

俺もそんな彼女の可愛い表情に、自然と顔がほころぶ。


「よぉ!おまたせ。」

軽く手をあげてそう声を掛ける。すると


「もぅ!武井くん、遅いっ!……来てくれないかと…思ったじゃん。」

はじめは怒ったような声で言いながら、途中で尻込みするこいつ。


「あ?遅くねーよ。まだ2分前じゃん。それともお前…そんなに俺が来るのを心待ちにしてたわけ?」

少し意地悪くそんなことを言ってみた。


すると彼女は、赤い顔をさらに赤くして

「ちっ違うわよっ。わ、私もさっき…来たとこっ」

慌てながらそう言うと、ツンとそっぽを向いてしまった。



あぁ、こいつらしさが可愛いな…けれど、ここに居ても寒い。場所を移すか…


そう思いながら声を掛ける。


「なぁ、これからどーする?メシでも食いにいくか?」

「あー、そうだね。そうしよっか。」

「んじゃ、ミユ、行くぞ。」

「えっ////」


途端にまた、真っ赤になって立ち止まる彼女。

俺がつないだ手を パッと引っ込めて身体をすくめた。



「あ…えとっ!」

「あ?付き合ってんだろ?手ぐらい普通につなぐだろー。」

「あ、えと…そか、うん…」


素直にうなずきながら、俺に手をつながれる彼女は…やっぱり、可愛いなと思った。



そしたら…

つないだ彼女の手は、すごく…冷たくて。



「おまえ、手、冷えてんじゃん。さっき来たとか…ウソだろ。」

そう言う俺の言葉に

「えへへっ」

と、彼女は照れ笑いをした。


「なんだよ。やけに…素直じゃん」


てっきりまた、強がるかと思ったのに…突然そんな素直な反応をするから・・・

俺は調子が狂って、そんな言葉しか出てこなくて。


つないだ彼女の手を…コートのポケットに突っ込んだ。



「あとで…アドレス、交換しような。」

「うん」


そんな会話をしながら、彼女の冷たくなった手に…

あれ以来大した会話もしていなかった俺を、ちゃんと待ってくれていたんだなと実感して

こいつが妙に、いとおしくなった。


彼女がさっき言った言葉は、おそらく本心なんだろう。

たぶんこいつは…本当に、俺が来るかどうか不安だったんだろうな…


せめて、事前にアドレス交換くらいして、今日の約束の確認くらいしてやればよかった。


そう思うと、俺のポケットの中の彼女の手が 俺の熱であたたかくなっていくのを感じながら

俺の胸も…こいつの熱で熱くなっていくのを感じた…





しばらく歩くと駅前のレストラン街についた。


「おい、何食べる?」

館内の案内図を見ながら彼女にそう聞く。


「んーと、武井くんは?何食べたい?」

すると彼女も俺にそう聞いて来た。


…けれど、こいつの目線は明らかに…パスタ屋の写真に向いている。

…パスタ屋行きたいって、バレバレだろう。

そう感じたから、


「んじゃ、パスタ屋にしよっか。」

俺の提案に

「うん!」


彼女は少し嬉しそうな顔をしたーーー




パスタ屋に入ってメニューを選ぶ。


「んーなに食おうかー」

「えーっと、私はこれにしようかなー」


彼女はたらこスパゲティーを指差した。

あぁ、女子っぽいなーとか思うと、先日の事件の時のことが妙におかしくなってきて。


「なぁ、おまえ。そんなんで足りんの?爆弾弁当と惣菜パン2個・・・食おうとしてたクセに」

ちょっとからかってみた。


そしたら彼女は

「いいのっ!大盛りにするからっ」


・・・・・・見事に強がったオーダーをした・・・・



なーんでそう、いつもバレバレなのに強がるのかなぁ。

そう思いながら、大盛りパスタと格闘してるこいつがまた、おかしくて、可愛くて。


けれど、だんだんパスタを運ぶ彼女のフォークが重たくなってきているのを感じたから


「あー俺、やっぱ足りなかったわ。おまえの、ちょーだい」


そう言って、彼女のパスタを一気に全部食べてやった。


「あーうまかった。」

そう言う俺に


「もぉーーー私のだったのにー」

とか言いながら、わかりやすく安堵の表情を浮かべてる彼女がまた、可愛くて。


「あー?俺のパスタは俺のもの。お前のパスタも俺のもの」


そう、ふざけた事を言ってみると 彼女もまた、くすりと笑った。




その後、無難だけど駅前のゲームセンターに行った。


彼女がプリクラを撮りたいって言うから、1枚だけ撮った。

彼女は女子高生らしいポーズで映ってたけど、俺は全部ふざけた顔をしたから、

「もぉーもっとフツーの顔してよー」

なんて、彼女はまた、怒ったような声で笑った。


その後、彼女が

「このキャラクター好きっ」

なんていうから・・・UFOキャッチャーに燃えた。


持ってる小銭だけじゃ取れなくて、

「あーくそっ!もっかい両替してくるっ」

そんなことを言いながら、2千円くらいかけて ちっこいぬいぐるみを一個GETして

彼女に上げた。


「ありがとっ」

そういいながら彼女が、ぬいぐるみを小さく抱きしめながら笑ったから、俺もまた、嬉しくなった…



そして・・・ふたりでクレープを食べた。


俺が先に食べ終わったから

「お前のも、ちょっとちょうだい」

って、返事も聞かずに彼女のクレープをひとくち食べた。

「もぉーー」

とか言いながら、彼女は少し、赤い顔をした。




・・・・・なんだかんだと楽しい時間を過ごして

外に出るともう、日が暮れていた。


外の空気は朝より一層ひんやりとしていたけど・・・

「なぁ、送っていくから…もう少し、一緒に居られるか?」

そう聞いた。


そしたら


「・・・武井くん。今日は・・・ありがとう。恋人ごっこに・・・付き合ってくれて。」


彼女は突然、そんなことを言った。




「は?」




思いもよらない彼女の言葉に・・・そんな言葉しか出なかった。

けれど


「今日は、楽しかったよ。けどね、もうおしまい。」


彼女がまた、そんな言葉をつづけたから・・・


「ちょ、待て。は?なに言ってんの?!」


そう聞き返すのがやっとだった。




「ねぇ、武井くん。私ね・・・ホントは、武井くんのこと・・・ずっと、好きだったんだ。」



彼女は、まじめな切なげな顔でそう言った。


まてまてまて。おい、待て。



「だったら・・・このまま付き合っていたらいいじゃん。なんで・・・おしまいとか言うんだよ。」



「あのね・・・」


彼女が言いかける言葉に、その先が急に不安になった。


俺は…今日はすごく楽しかった。けれど…こいつはそうじゃなかったんだろうか。

こいつが俺を好きだと…自惚れて、俺が調子に乗ったから…愛想をつかされたのだろうか。


言いようのない不安が、俺の頭の中を支配する。



すると、言葉を詰まらせていた彼女が突然、意を決したように



「私!武井くんのこと、キライになっちゃった。だから!おしまい!」



勢いよくそう言った。



「うそ・・・だろ?なに・・・言って?」


「だから!キライになっちゃったの!武井くん・・・思ってたイメージと違ってたしっ。好きでもない女の子の手とか・・・気軽につなげちゃうしっ」


「ちょ、ちょっと待てっ!」



わけがわからない。けれど、とにかく俺はこいつを手離したくない。

だからとっさに…彼女の手を引き寄せた。


そして

「なんだよ、それ。俺は・・・お前のことが、好きだ!!!」



駅前のゲームセンターの前。

そんな人込みの多い場所だなんてこと、気にしてる余裕なんて 俺にはなくて…


気付けば、そう、叫んでいた…



すると彼女は 


「困るよ・・・」


一言そう、涙声で言った。



なんて言えばいいんだ。想定外の言葉に、俺は言葉が出てこない。

ただ、こいつを・・・離したく…ない。


だから俺は…


こいつを強く、抱きしめていた。



すると彼女は、俺の腕の中で


「だから・・・困るよぉ。」


やっと聞き取れるくらいの涙声で…そう言うと…


「キライに…なれなくなるじゃん…」


かすれるような声で、俺の胸に顔を埋めて泣き出した----




正直、俺はわけがわからなかった。

こいつはなにを言っているんだ?なにを考えているんだ?


けれど、こいつも余裕を失くしている事だけは分かった。


だから、俺は腕の中のこいつを…優しくまた、抱きしめた。



そしてそのまま…彼女の頭を優しくなでる。

すると彼女はそのまま、泣き続けた。


ただ、なにも言わずにそのまま頭をなでていた。

そしたら少し、腕の中の彼女が落ち着いたのを感じたから…


「なぁ。俺…お前のことが、好きだよ。はじめは…暇つぶしとか言ったけど。

今の俺は…すごく、お前のことが大好きだ。だから俺と…付き合ってくれませんか?」


俺は真面目に、彼女にそう、告白した・・・・。


正直、俺は少し思ってたんだ。

俺はこいつが俺のことを好きだと知ってたけど、

こいつは俺がこいつを好きだとは、たぶん知らない。


だから…恋人ごっこだとか、おしまいだとか言い出したんじゃないかって。

だから…俺が真面目に告白をしたら…こいつはまた、笑ってくれるんじゃないかって。


けれど。



こいつは静かに、首を横に振った・・・

そして


「私ね、春から…パリに行くんだ。デザイナーになりたくて…独学でコンクールにデザイン画を何度も応募してたんだけど…こないだのコンクールで優勝して…その副賞で、留学が決まったの。


だから…春から離ればなれになっちゃうんだ。はじめは…武井くんが私を好きになってくれるなんて思ってなかったから…思い出に、一緒に過ごす時間が出来たらいいな、なんて、そんなこと思っちゃったの。


けどね、今日…一緒に居たらすごく…楽しくて。もっともっと…好きになっちゃった。


だから…これ以上好きになっちゃったら…別れるのがツライから。もう、おしまいにしよ?

せっかく…好きになってくれたのに…勝手なこと言って、ごめんなさい…」



彼女は途中、何度も言葉を詰まらせながら…そう、言った。


そうか。俺が春から大学生になるように、こいつにも新しい進路があるんだ。


なのに…そんなこと、考えてなかった。

そして…別れる事が分かっていたから…あんな、告白の仕方だったのか、そう、悟った。


けど。


「おまえな。俺を見くびるなよ。惚れたオンナをカンタンに手離したりなんてするもんか。

俺は、お前が、好きだ。だから・・・おしまいとか言うなよ。


パリでもどこでも、お前が成功するためなら行けばいい。俺はそれを応援する。

けれど、だからと言って、俺はお前を諦めたりもしない。


離れることが分かってるから別れるよりも、離れると分かっているからこそ、今、

おまえとちゃんと付き合いたい。そして…それでも俺を好きでいてくれるのなら…

遠距離になったとしても、俺と、付き合ってほしい。」


俺は…精一杯の言葉でそう言った。


すると彼女は、


「・・・・・・・・・・・・・・うん。」


長い沈黙の後、泣きながら、うなずいた・・・・・




----俺、おまえと付き合い始めてまだ間もないけど

おまえのこと、大好きだよ。


たぶん、こんな俺を笑うヤツもたくさんいるだろうけど、

俺、おまえがくれたあの、ルーズリーフに心を奪われたんだ。


あのルーズリーフは・・・ただ、黒板を書き写しただけじゃなくて

授業を受けていない俺でも分かるように、ちゃんと気遣って書かれていた。


そんな気遣いが出来るやつ・・・俺は他に知らない。


きっと、普通科の高校に通いながらパリ行きのチケットを取れたのも…

こいつが本気で取り組んできた結果だろう。


それは、こいつの授業を受けてるときの真面目な横顔で分かる。


そんなところも含めて…俺はおまえに惚れたんだ。




だから…俺はおまえを離さない。


俺は腕の中の彼女をぎゅっと…抱きしめた-----






-FIN-


















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― 新着の感想 ―
[一言] 続編が読めると思ってなかったので 楽しく読ませていただきました。 初めてのデートでここまでいくかなー?という気はしますが デート中の幸せ感でいっぱいな気持ちはよく伝わってきます。 柳瀬がこ…
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