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この花をあなたに~あなたの夢のお手伝いをさせてください~

作者: ななぱん
掲載日:2026/06/19


 騎士科は男所帯である。


「少しはこっちに華を持たせろよ」

「可愛げないよな」


 成績優秀な女子は陰口を叩かれる。


 ――男の人ばかりだから女一人だとちやほやされていいよね。


 そんなことを言われた。実際はそんなことない。いや、可愛らしい女子だったら、そうだったかもしれない。


 けれど、ミーシャはそんな女の子になれなかった。


 騎士の家に生まれ、幼い頃から当たり前のように剣術を仕込まれた。兄たちと同様に騎士科へ進学し、学業も実技も両立するよう努めている。

 努力の甲斐あり、どちらも学年トップレベルだ。


 それが男子には気に食わないらしい。


 騎士は男性の職業であるという認識が根強く、女性は煙たがられる。それが学生の間でも浸透していた。


 友達もいないミーシャは今日も一人で昼食を食べていた。彼女の周りだけ席が空く。


 男子たちはそれを遠巻きにして、時折笑っていた。



 ある晴れた休日。

 ミーシャは寮を出て、校庭の隅にあるベンチの端に座っていた。心地よい風が吹き抜ける。ミーシャの短い金髪をサラサラと揺らした。


 主に貴族たちが通うこの学校の校庭は、色とりどりの花が咲くよう整備されている。様々な場所にベンチが設置され、生徒たちの憩いの場となっていた。


 ミーシャが選んだのは特に静かな一角にあるベンチだった。人通りも少なく、静かに過ごせる。

 緑が躍る中、ミーシャは大きく息をついた。


 そこに現れたのは、会ったことのない細身の青年だった。ミーシャと同じ金色の髪は短く整えられ、手には分厚い本を抱えている。


「おや、今日は先客がいたか」


 声変わりした低い声が流れた。細身の身体からは想像がつかない低さだ。

 ミーシャはアメジストの目をぱちくりさせた。読書のために来たのだろうか。ミーシャが席を立とうとすると、彼は片手で制した。


「構わないよ。こちらに座るから」


 彼はミーシャの反対側の隅に腰を下ろす。ぺらりと重そうな本のページを軽やかにめくった。


 ミーシャは無意識に左手首を撫でた。彼はそれを視界の端に納めていた。本をぱたんと閉じて彼女に目を向ける。


「左手首、痛めているのかい?」

「え? ええ、授業で少々」


 力任せに剣を振るう男子と当たってしまった。いつもなら受け流せるが、ちょっとミスをしてしまったのだった。ただ、医務室へ行くほどではない。


 彼は「見せて」と手を伸ばした。ミーシャは恐る恐る左手を差し出す。彼がミーシャの手を取ると、優しい光に包まれた。

 ミーシャが驚いているうちに光が消える。彼はふぅと息をついた。


「これで大丈夫だと思う。動かしてみて」


 ミーシャは言われた通りに手首を回した。痛みがなくなっている。


「痛く、ない……」


 ミーシャは呆然とつぶやいた。


「良かった。あ、僕は普通科のハリス」

「騎士科のミーシャと申します」


 自己紹介をされたミーシャは何となく返した。



 これがミーシャとハリスの出会いだった。


 二人は格別の約束を交わしたわけではないが、このベンチによく来るようになっていた。



「僕は小さい頃とても病弱で、長く生きられないとまで言われたんだ」


「でも、お医者さんが一生懸命サポートしてくれたおかげで、今はこうしていられる」


「だから、僕は医者になって、たくさんの人を助けたいんだ」



「私は幼い頃から剣術ばかりでした。殿方に後れを取らぬようにと、文武両道を心がけております」


「けれど、それが学科の中では快く思われていないようで」


「それでも、私は立派な騎士を目指す所存です」



 二人は身の上まで話す仲になっていた。



 そんな中、騎士科の晴れ舞台がやってきた。年に一度の武闘大会だ。学年別に開催され、優勝者は想い人(基本的には婚約者)に花を渡す習慣がある。

 特に意中の相手や、婚約者がいる者は張り切って参加していた。


 ミーシャも日頃の鍛錬の成果を遺憾なく発揮した。

 最初は女子が男子を打ち負かすことに歓声が上がっていたが、試合が進むにつれそれも小さくなっていく。


「婚約者もいないのに、殿方に勝ちを譲りませんの?」

「花がもったいないですわ」


 こそこそと令嬢たちが囁き合う。


 それでもミーシャは手を緩めることはしなかった。


 目にも止まらぬ速さでミーシャの剣が舞う。相手の剣が弾かれて地面に転がった。


「優勝者! ミーシャ・フェンデル!」


 審判の声が高らかに響く。歓声は小さく、拍手だけが会場を包み込む。

 勝者に与えられる白い花を受け取り、ミーシャはきょろきょろと会場を見回した。


 相手がいるのか、と周囲がざわめく。


 ミーシャはハリスの姿を見てパッと顔を輝かせた。ハリスは驚いて彼女を見下ろした。


 ミーシャは観客席へ続く階段を足早に上り、ハリスの前まで来ると片膝をついて白い花を差し出した。


「ハリス様。ぜひ、私にあなたの夢のお手伝いをさせてください」


 彼女の真摯な瞳に、ハリスは口元に小さな弧を描く。彼の手が白い花へ伸びた。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 ハリスが花を受け取ると、歓声が上がった。


「はい! 騎士としてあなた様を必ずお守り致します!」


 ミーシャの元気な宣言が高らかに会場に響く。ハリスがピタッと硬直する。歓声が徐々に小さくなっていった。


 静まり返った会場に、誰かのつぶやきが、やけに大きく聞こえた。


「あれ?」


お読みいただきありがとうございました!

最後の「あれ?」を書きたいがために書いた小話です。

「ちょっとミーシャちゃん!?」と思われた方はぜひ★の評価でハリスを応援してください!

リアクション等もお待ちしております♪

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