怖がらないということ
怖がらないということ
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ブール、ディングル、ラドワギレ。どこの言葉か知らないけれど、こういう意味があるらしい。「かくれんぼする者この指止まれ」。これを鏡に向かって楽しそうに言えば、集まってくるんだって。かくれんぼの相手が。かくれんぼが大好きだからずっと続けようとして、仲間のところに連れて行かれるんだって……そんなくだらない話をしていると、部屋の電気がついた。立ち会ってくれた人が、横やりを入れたんだ。
肝試しにいいからってネットで調べたような怖い話をみんなで持ち寄って、披露し合う。「本当に何かあったらどうする?」なんて気にしてるのは一人か二人、その子たちは誰かに相談したらしい。口づてに頼りになる人が見つかって、何かあったら止める、と言ってくれた。それがこの人。灰色、っていうイタいあだ名の霊能者か何からしい。知り合いの見える人が、よく仕事を頼むから自分より頼りになる、と言ってくれたのだそうだが、三つ目でもう止めに入った。昨日ネットで拾った話が何かあるわけもないのに。
灰色さんは、終わりだな、って言っていた。まだこれからじゃん、何も起こってないし。私がそう言うと、やったことがあるのか?と聞き返された。みんなはない。私は、こういうのはたまに思い出して冷やかしでやってみることがよくある。なんにも起こらない。冷やかしと言っても相手は踏切とかトイレとか、怒るような相手ではない。怖がる子がいるからいてもらうだけで、何もしなくていいのにさ。
灰色さんは、はあ、とため息をついてその後も話を聞いていた。最後に、みんなに何かを配っていた。封筒のような。お清めの塩とかそういうのだろう。帰ってから捨てようと思ってとりあえず受け取って、私に手渡すときに言っていた。何かあったら言えよ。その子がミナカタの連絡先を知ってる、と相談先を念押しした。私を狙ってるのかな。こっちは女子高生なのにロリコンなのだろうか、私はかわいいから仕方がないけどさ。
……家に帰って寝る準備をした。今日は父さんや母さんはいない。一人で戸締まりして、歯を磨く。鼻歌を歌って、鏡に向かってぽつりと言っていた。
「ブール、ディングル、ラドワギレ♪」
どこの言葉かは知らない。そこまでネットになかったし。日本人がいくら言っても発音が違うから何も起きない。無理やりカタカナにしただけ。そういう話らしい。鏡に映る私の背後には、腰ほどの高さの丸いぎょろ目の人間のような生き物が映った。真っ黒な体で、両手の指を順番に折っていく。1。私は歯ブラシを落とした。2。振り返ると、何もいない。鏡には映っている。4。数を数えているのだと気がついて、私は駆け出した。ウチのソファの横にうずくまって、隠れようとしていた。隠れたうちに入らないようなうずくまり方で。……そろそろ10だろうか。足音が近づいてくる。誰もいないはずなのに。私の頭のすぐ上で、声がした。無理に音にするなら。
「ヨールバング♪」
悲鳴を上げる直前に、バン、と音がした。何かが破裂したような。私のものではない悲鳴が上がり、何かが逃げていったような。私は次の朝まで、気を失っていた。
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……ああ、いろいろついていた。あの手の噂は一個やそこら試してもだいたいデタラメだが、たくさんやりゃあ本物も混じる。あーあ、こういうヤツいるんだよってあきれてたらヤバい話してやがる。何言ってるかわかってるのか。かくれんぼじゃねえよ、それは召喚呪文だ。儀式のあとに何が起きるかなんて、オレだって想像がつかない。ムキになったらむしろ試しそうだったから、一応用意していた護符を渡した。怪しまれないように、全員に。あれから五日間、お前には連絡がないんだよな?まあ、大丈夫だとは思う。思うが、何が来るかわからねえんだから保証はできねえよ。追い払ったとして、もう来ないかどうかは……知り合いの女の子に、一応当たれるか?ああ、風邪をこじらせてもう四日も寝込んでるか。いや、無理すんな。寝てろ。連絡があったら言えよ。すぐにだ。すぐだったら、どうにかできるかもしれないんだが……。




