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栄光なんかない

栄光なんかない

※※※※※※※※※※※※


 平和な昼下がりでした。病み上がりの娘は、公園で元気に飛び回っていました。春の陽気は暖かく、風も優しい。人はいませんが、娘の声が大きくてにぎやかなくらいです。公園の向こう側に、男性が一人……ベンチに座って手帳を見ている以外は、変わったことはありませんでした。すると、突然です。娘が倒れました。起き上がれずに痙攣していて、私は慌てて抱き上げました。意識はありますが、呼吸が乱れています。おろおろする私の後ろで、誰かの声がしました。

「喘息か?」

 公園の反対側にいた男性が、携帯電話を手に立っていました。かけるぞ、と言っていたので緊急電話を任せて、私はカバンを探ります。医師にもらった薬が見つかって、急いで取り出したのですが。

「抗ヒスタミン系?」

 ……薬は私の手の中です。男性には見えていない。でも、その何を意味するかわからない名前を、男性は言い当てました。医療従事者かと思えば、違うそうです。仕事柄薬物に詳しく、幻覚作用を持つものは一通り知っていると言います。娘が、妖精さん、とつぶやいたのを耳にした男性はたぶんそうだろうとあたりをつけたそうです。


 この薬と喘息の治療薬、そしてある種の発作が重なればこうなる。そんな話は医師から聞いていませんが、順番に考えればこうなると言います。ならば医師はな言わなかったのかと聞くと、男性の回答は簡単なものでした。

「医学書に載っていないからだ」

 男性は、実地で症例をたくさん見ているそうです。専門でもなんでもないが、説明がつかないと皆納得しない。しかたなく調べていると詳しくなったそうです。そして私の手の中にある薬は、たぶん症状を悪化させる。知識としてあるわけではないので絶対ではないが、とても進められないと言います。私にだって知識はなく、信用も否定もできず立ち尽くしていると、救急隊員が来ました。幸運にも交通量が少なく迅速に来ることができたそうで、娘の容態を見てくれました。


 やってきた救急隊員と男性は険悪でした。なんでも、前に病院に呼ばれた男性は自分の管轄ではないと処置をせず、事態は悪化の一途をたどった。それ以来、医療業界からにらまれているそうです。男性は、自分に薬や手術のことがわかるわけがないだろう、と言い返しましたが、救急隊員は男性を一喝しました。

「黙れ、灰色」

 救急隊員が応急措置をして娘は少し安定しました。そして救急車に乗せられます。男性は、おい、と救急隊員を呼び止めました。パチンと指を鳴らして、ちゃんと治せよ、と言い残した男性を残して、救急車は去っていきました。後に娘は薬物による幻覚症状を訴えました。妖精が見えたけど、途中でいなくなった、と。病院の者は皆、薬物の影響だと言っていましたが、そうでしょか。私には見えました。男性が指を鳴らすと、妖精が現れて逃げていった。妖精は、救急隊員たちの頭上にいたように見えたのですが……。


 娘の痙攣は、喘息薬と抗ヒスタミン系治療薬の併用によるもの。ある種の発作が引き金になったと診断されました。

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