表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/23

悪人一旦雨宿り

悪人一旦雨宿り

ーーーーーーーーーー


「エルザ様、雨です!風も強いです!」


 魔界と連絡がついてエルザ様が起きていたので、必死に頼んだ。この系列の作品は外伝扱いなのに紐づけずにアップしているからわかりっこないが、オレの上役のエルザ様は「嵐のエルザ」の二つ名を持つ大悪魔、嵐が強ければ強いほど力を増し猛威を振るう。逆にいうとカラ天気のときは出てくることもできずに手下たちに当たる。現時点で「手下たち」というのはオレのことなのでオレが当たられる。「たち」というのは見栄を張っているわけではなく、手下はオレだけだが「オレたち」なのだ。殷王朝のミスコンでエルザ様に勝った手下志願者の展子が、ずっとつきまとっている。本人はもう手下のつもりだがミスコンで勝っておいて手下になりたいという時点で決定的に素養がなく、かと言って木端食人鬼のオレよりよほど強い妖怪なので逃げることもできず、要するに「助けて!」と言っているわけだ。エルザ様は悪魔の中でもちょっと引かれるくらいのいい性格なので眠いときに出てくるわけなく、正面からは言えない。だから「展子がいて」「雨が強いし」「オレが言っても」と必死に来ないといけない状況を並べているのに、エルザ様ときたら「まけ」。それができないから頼んでるんでしょーが!と思わず口走る前には電話が切れていた。雨の日の電話ボックスで、ツー、ツー、という悲しい電子音が響き、財布の小銭はもうない。エルザ様は歳の離れた末っ子だからこういうところがあるのさ、仕方がないさと涙を流しながら自分に言い聞かせてバス停に帰った。ヒドラがいるかも!などという算段で降りたが田舎のバスなんて一日に一本とかしかないと気が付かなかったのが運の尽き、展子ともども山の奥に置き去りになった。食人鬼のくせにバス停に帰らず山を越えて逃げないのかと考えるアホがいるかもしれないが、食人鬼だって山で迷うと泣きそうになる。せめて晴れるまで、バス停にいるともう決めた。


 戻ると展子がやたら上機嫌で、なあなあ兄さん!友だちができたんや!と喜んでいた。こんな山奥のバス停という名前の掘っ建て小屋に居合わせたら知らないヤツでも友だちな気がしてくるだろうからそういうことかと思ったら、誰もいない。あれ?と展子が言っていて、幽霊かと思った。自分たちが食人鬼で九尾の妖狐なのに一丁前に怖がった後、ようやくどんなヤツだったかという話になった。エルザ様のことを、知っていたらしい。なんとなく話題に上げたら、長い金髪で射すくめるような目で、賢いがやることが振り切れていて態度を変えてみせるのも上手くて……知っているとしか思えない。さらには、エルザ様の生い立ちまで知っているようだったという。魔界でもほとんど知られていないエルザ様のプライベートなんてデタラメ言ってもバレない、と思っていたら「離れた末っ子なんやってね」などと言われてひっくり返りそうになった。そいつは誰だ!と聞いても展子も知らない。どんな話をしたのかとこちらが問い詰めた。


 エルザ様の父上は、太古の昔に恐れられた最強力の邪神だともっぱらの噂だった。噂はあるがこれ以上はわからず、オレでもこれ以上のことは知らない。見上げるほど大きく、腕を広げて、力は底知れず、足は大蛇のよう。あまりにハッタリをきかせすぎて逆に想像がつかず、特に考える者もいない。だがそいつは知っていたようだという。エルザ様の父上は、ただ強かっただけ。誰にも縛られなかっただけ。それを聞いた展子は、もしかして、と思い出したそうだ。展子の一族が知っている男かもしれない。そう思って聞いてみたら、やはりわかるか、と言われたらしい。展子の一族を懲らしめに遠く地の果てから現れた屈強な男。獣のような強靭な体は、展子の一族では誰も敵わなかったという。蜘蛛の子を散らすように逃げ、砂漠の民に拾われた者もいたがエルザ様の父上は力をなくして封じられた。……展子のご先祖が、何かをしたらしい。


「……何か食べさせたんやって……」


 展子の家の言い伝えは、まるでそれが誇らしいかのように自慢していた。だが口に出さずとも、少し頭の巡る者は思う。「盛った」。エルザ様の父上はもがき苦しみ、地の底に押し込まれた。展子は辛くても知っていることを言わないといけないと思ったが、そいつに止められたらしい。言わなくていい。辛くても言おうという者は、もう背負わなくていい。そいつはその後のことも知っていて、父上と金毛白面の間に生まれたエルザ様は金毛白面として育ち、父上の嵐の膂力と母親の狂気を同時に宿した。嵐のエルザという、大悪魔の誕生となる。


 雨と風の音だけがしばらく響き、そいつは言ったという。今くらいがちょうどいいかもな、と。世界の破滅だ永遠の搾取だなどと考えながら、疲れて寝ていて食うなら起きる。それくらいでいいのかもしれない。あまり責める気にも、今はならないという。


「私が……そうだったかもしれないからな」


 嵐と雷は、常に表と裏。天空で荒れ狂い凌ぎを削り、同時に出てきて同時に消える。エルザ様が何か始めたらまた来るとそいつが言っていたところに、オレが帰ってきた。展子は嬉しくて、もう友だちになったつもりだったからそう言ったのだが、いない。どこに行ったのだろう、誰なのだろう。そんなことを考える前に、展子が息巻いた。私、あね様のためにがんばる!少しでもおそばにいるんや!ぎゃーーー!張り切るな!なんとか収めようにもそれができないからずっといるわけで、事態は泥沼一直線。ちくしょう、どこのどいつだ!雨の止み始めた空で、遠くに雷が鳴ったのがわかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ