悪人怪物探索記
悪人怪物探索記
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「いやあ、久しぶりやわあ!」
やってきたのは欧州の端っこ、田舎町。湖がデカくてきれいだというこの町に、展子は来たことがあるらしい。私の旅はここから始まったんや!とロールプレイングゲームのようにモンスターを集めたのかと思えば「私が全部ばらまいた!」ととんでもないことを言う。ばらまかずにいればエルザ様の軍勢に少し分けてもらったのに、逐次ばらまいていったので一つも手元にない。なんでも、ここにいるヤツに頼まれたのだという。展子の旅とやらは、そいつへの義理らしい。
一度ジャパンのキューシューで封印された展子は、散り散りバラバラになったものが集まって再度実体化、まあ破片程度なので大した力はない。しかしノウハウと経験、何より美貌がそのまんまなので人間なんてころころ落ちる。私はきれいやさかい仕方あれへんて!というやたらめったらキツい訛りは西のものだという。西も行き過ぎたらそんな言葉は使わないはずだが、その西より遙か西のこの辺で生まれた。海の見えるあたりらしい。
透き通るような白い肌、神々しい金色の髪。そのうえ周りと比べても美人だと評判で好き放題やっていた。どんなわがままでもだいたい通って、部下を足蹴にしていた。今思えばさほど楽しかったわけではなく、我ながらしょーもない、子どもやったんやな!と開き直っている。そんな頃にこの町に来て、周りの連中をたぶらかしていた。そしたらこの町には、守り神がいたという。湖のどこかに棲んでいる生意気な守り神をぶっちめてやろうと、部下に探させた。そしたら部下がいないうちに守り神が出てきた。これは大昔に死に絶えたでっかいトカゲ、首長とか呼ばれるものだと一目でわかった。首長は展子を一目見て空に首を伸ばした。こら!何してんねん!こっちや!太陽の光の中にある首長のアゴに向かって叫ぶと、首長が答えた。
「焦るな。いい天気だ」
首長と展子はしばらくひなたぼっこ、寄りかかって昼寝をしているうちにどうでもよくなった。もう安心だ、と首長が帰ろうとしたときに、火が放たれた。いつの間にか周りにばらまかれた油が、勢いよく燃える。部下が展子ごと怪物を殺そうと火を投げ入れたらしく、油の真上を通っていた首長は燃え上がり悶えた。何すんねん!と勝手な部下を叱る暇もなく、展子は首長を助けようとしたが首長は火を嫌って湖に転がり込み、もう出てこなかった。展子は三日三晩泣いて、昼寝をしながら首長が言っていたことをすると決めた。
世界中に、怪物がいる。怪物たちが持っている必要なものが、君ならわかるだろう。ここを離れることができるなら自分で探すところだが……君はそんなことに、興味はないか?展子とて全部わかったわけではない。だが長い首が空に突き出されたその姿を世界中にばらまいた。あるときは蛇のような巨大な化け物、あるときは首がねじれてすっぽ抜け空を飛ぶ女。そのうち面倒臭くなってどんどん伸びると端折ったが、その方が広まると思ったのも確かだという。展子が立ち寄ったある国では自分と似たような金毛白面がいたことがあって、「意味もわからずやってるからその程度なんだ」と言われて感動した。ミスコンではウチが勝ったけどあね様はすごい!とここは触れないでおこうと一瞬で判断できる話を流して、黙っていようと思ったのだが聞き捨てならない。
「エルザ様が、金毛白面?」
そうやないの、と言われたら確かに金髪で色白なのだが、妖怪ではなく悪魔の一角、それも大悪魔と自分で言っても「ははー!」とみんなツッコまない超ド級が、妖怪と同列?いくら大妖怪でもそれはないと思ったが、展子が言うにはなんでも全部同じところから出てきたらしい。粒のデカいのは悪魔の源流に、小ぶりなのは妖怪妖魔の類い、話にならない魑魅魍魎は人間に混じった。まあ結局は「同じところ」とやらが不満で飛び出した者たちで、悪事を続ける者が多い。あね様みたいにスケールのデカい悪党もいれば、おもろうないのにずっとやってるヤツらもおる。ウチ、おもろいのが好きやねん!と、こういうしゃべり方のヤツは世界津々浦々似たような趣味を持つのだろうかという疑問を置いといて、話は続いた。
金毛白面同士の争いになったミスコンで勝ったあと、エルザ様と話せなかったらしい。「なぜか」たいそう怒って帰ってしまった。向こうにとってはその程度の国だったのだろうと思って言われたことを考えていたらしい。自分は何をしているのだろう。何が必要かわかっておらず、たぶんこうだをばらまき続ける。迷っているうちに、他の金毛白面がその国に入り込み、あっという間に滅びたらしい。
滅んだ国にいる理由もなく、いたいとも思わずにまた海を渡って、キューシュー。力を大幅になくして後は悪さをするばかり。そこいら中に不和の種をばらまいた。展子曰く、蘇ったときにはもう周りがやられていた。だから逆に壊せばいい、と思ってそんなことをしているらしい。やたら背の高い女、口が大きい怪人。無駄に便所を我慢させる幽霊は学校の女子用の一番奥に放り込んだ。当時は一番奥の便所でよかったのだが、今はあまり意味ないらしい。
話が長いので日が暮れてしまった。宿を探さないといけない、寒いしな。だが展子がもう少しと湖を見ているのでしぶしぶ付き合った。意味ないんかなあ、と珍しく弱みを見せた展子に、イニシアティブを取ろうと適当なことを言った。適当なことどころかまずイニシアティブの意味がよくわかっていない。主導権とどう違うのだろう。
「数打ちゃ当たる。一つくらいはなんとかなったろう」
オレは仕事の段取りが悪いのでいつもこの考え方をしている。この考え方をしているから確率でしか仕事が進まず、こないだ灰色とやり合ったときは全部外してエルザ軍団はこのザマだ。まあオレの行動パターンに展子を誘い込めば、適当に言いくるめて追い払えるかもしれない!と思ったら展子が泣き出した。膝を抱えてしくしく言ってるので、相手は大妖怪だから下手すると殺される!と思ったら手を握られた。もう少しこのまま、というのでビクビクしながら待っていると、湖の畔に誰かが来た。
「おや、お邪魔だったでしょうか」
九尾様、いつぞやは世話になりました。そう言う男は湖を見に来たという。展子にたぶらかされたというその男は、今は毎日が楽しくみんなが喜んでくれるのが嬉しい、と反吐の出ることを言っていた。ここには友人がいる、という男は展子を探していたらしい。
「お元気ですよ、守り神は」
それだけ言うと男はどこかに行ってしまった。少しして、男と同じコカコーラみたいな服のヤツが乗るソリが、空を飛んでいった。デカい角の獣に引かれるソリの上から手を振った男は、どうやら何か置いていっていたらしい。オモチャのブーツに入った安物の菓子。靴下は履くよりつるすのがいい、というのが男の言い分だそうだ。
……あーあ、ウソから出たマコト。一つは上手くいってるようだな、というと展子が立ち上がった。宿を探して、二人で食べよ!まったく、食人鬼だというのにまたこんな食い物か。オレは天下の精霊族だぞ!精霊族だが最下級だという現実を思い出して悲しくなった。まあ、指輪やランプにくくられてるよりはいくらかマシだがな。




