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悪人トーダイ放浪記

(ARX)悪人トーダイ放浪記

※※※※※※※※※※※※


「エルザ様、協力者が見つかりました!」


 魔界に連絡するとエルザ様はたまたま起きているから自分で伝えろ、と電話を回された。ぜひそちらで伝えてくれ、という要望はなぜか聞こえなかったらしい。エルザ様は、寝ようとしたけど腹が減って眠れなかったらしく、今土蜘蛛の臓腑に闇のマグマを注いだところだから三分以内に全部言え、とドスの効いた声で言ってきた。オレだって土蜘蛛の臓腑が伸びたなんてバカな理由で殺されたくないのでとっとと話を進めた。


「九尾のですね」


 がちゃん、と電話を切られた。姉様はなんと言ってましたか?と聞くかわいらしいと同時にわざとらしい女は、エルザ様を「姉様」と慕っている。なんでも少し前大陸で競い合い、「ミス殷王朝グランプリ」で優勝を争って鼻差だったという。あのときは負けた思いましたわ、とくすくす笑う女は、見た目で言えばエルザ様と大して差がない。このアジアの片隅の首都、その中でも誉れ高いという学び舎で、何かしているところだったらしい。


 以前、エルザ様の元で酒席があった。酒席と言っても飲めるのは招待主のエルザ様と来賓だけ、それも腹の探り合いなのでオレたちは有事に備えて突っ立って見ているだけ。「いつものこと」とみんなで励まし合っていたが、エルザ様が管をまき始めて、結果的に来賓は死ぬ前に完全服従を誓ったがオレたちも大変だった。私はそのままで十分勝てると思った、あいつは勝てないと思ったからなんでもしていた!わけもわからず「はい!そうです!その通りです!」とみんなで叫んで九死に一生を得たのだが、どうやらこいつのことらしい。姉様はきれいやし賢いから仲よおしたいわあ、と本気か嘘かわからない感じで言っている。本気なら良し、嘘だったらはめられるのでとりあえず「嘘だ」としておいた。こういうわかりにくい女が一番怖い、エルザ様が鼻差で負けたとのことだがたぶんいつも偉そうで媚びない分負けたのだ。ミスコンなんだから差がないならそこで決まる。


 お前はここで勉強しているのか?と聞くと、しょうもないからやってられへん、とすぐに答えた。それよりもおもしろいことがあるという。この学び舎の者たちは将来重要なポストに就く者が多く、今のうちに唾をつけておけばどこもかしこもわらわの物、きゃっきゃっきゃ!やっぱり怖いヤツだ、そこまで強くなくてもリアルで身近だからエルザ様と同じくらい怖い。まあこの国がどうなろうとオレには知ったことではなく、展子と名乗るそいつにとっても他人の並べたドミノ倒しと同じようなものらしい。並べた阿呆より先に倒すのが楽しい、というなかなかどうしてこういうことになるものかという感じだ。エルザ様って優しかったのだろうか。


 この学び舎には国中の精鋭が集まるというので、オレには無縁の場所だった。こちとら食人鬼なので全体が学食のようなもの、食ったら正体が即バレるので我慢している。腹減った。そんなことを言っていたら展子がパンを買ってきた。学食のレジ係は簡単に落ちたのでそいつ持ちらしい。よくもまあこういう賢いヤツが集まる場所で上手く立ち回れるものだ。そう言うと、展子は目をパチクリした。


「賢かったんや、知らんかったわあ」


 ……賢いヤツを集めてるんだろ?って聞いたら、ここの連中は一番引っかかりやすいという。展子に限らず誰に対してもそうで、一から考えるということをしない。兄さんの方が、よっぽど賢いで?なんて言われて喜びかけたが、これでは大昔の中国のアホ皇帝と同じだ。男というのは、こんなに簡単に引っかかるのか!と頭を抱えていると、「ほら、賢いやん」とバカにされた。エルザ様の言うとおり、ろくでもないヤツだ。


 ほな協力してや!なんて言い出して展子が計画を書いたノートを取り出した。もう断るつもりなのに聞いてくれない、まるで勧誘だ。今度のミスコンで一気に株を上げて、あいつとこいつと、ついでにこいつを落とせば後はただの詰め将棋や!って楽しそうに語る展子の肩越しに見える、男どもの視線が怖い。オレは学などないので学校関係者の知り合いとしてここに入るしかない。つまり展子の友人だ。展子の友人、と聞いていたのに最初に会ったヤツらに「ウチの彼氏やねん!」などというものだからそういう扱いになった。展子からすれば大した違いではないのだろうが、やたらめったら敵が増えた。違うとも言えず逃げることもできず、針のむしろ。こんな美人の彼氏になれるんやから嬉しいやろ?ってこいつは視野が狭いのだろうか、それともわかって言ってるのだろうか。ろくでなしめ。


 「生殺しで世界から搾取しようとする大悪魔の手先」という自分の立場を棚に上げて展子をひどいヤツ扱いしていると、お願いやのん、と手を取られた。優勝はできるけど、ただの優勝じゃあかん。すごい子がたくさんいて、その中で優勝になったら先十年は語り草になる。そういうのがしたいらしい。去年の優勝や来年の優勝では、話にならんくらいの優勝や!お願い、手伝って!って頼むんだったら手を放してくれ。オレは人間を食うと同時に空気を気にするので、できれば白い目で見られたくないんだ。


 まあ要するに「展子が出場するけど、お前なら勝てる」みたいなのを言いふらせばいい。普段ミスコンに興味がない女も「私ってそんなに美人なのか」とその気になって出てくる。不思議なもので、出ればいいのに出ないという女は割と多い。展子という極端な指標を出して虚栄心を煽ればその連中も多かれ少なかれ興味が出て、出場者は倍増。結果的にハイレベルになる。とにもかくにも言いまくったので、「あんたは女性をそんな目でしか見ない」と悪口を言われたり「バカにしてるのか!」と殴られたりした。それでも全体の一割くらいは上手くいって、一割も上手くいけば出場者は相当量増えた。残り九割がオレのこぶに化けて、がんばったんやね!ありがとう!と抱きつかれた。胸が当たれば喜ぶと思っているのか、オレはもうお前が何を企んでいるかわからんので怖いとしか思わない。


 展子プレゼンツ、「伝説のミスコン優勝者誕生だ~い作戦」は上手く行きそうだ。男なんて単純だから、すでに標的への根回しがすんでいて意識させれば落ちるのが確定している、と展子が自慢げに言っていた。わかるヤツからすれば簡単な駆け引きのようで、がんばって考えたという感じすらない。後はどうとでもなる。オレはまあ、本番のときに不測の事態がないように見張っている程度のこと。本番当日、あんなガキんちょが来ることがなければ上手くいっただろう。



「何してんの、こんなもん欲しいんとちゃうわ!」


 展子はミスコンの優勝盾を放り出して怒っていた。ここはその手の学び舎なので基本的に皆勉強とか研究とかしている。ミスコンの決勝の直前に大規模な停電が起きて、データが全部吹っ飛んだ!と上を下への大わらわ、結果的にハイレベルなのに誰も見ていないという残念なミスコンになった。ちゃんと見てへんかったの?と展子の雷が落ちたが、勝手に落とせ。お前の雷よりも稲妻の方が怖い。オレでどうにかなる相手ではない!と胸を張って言える。展子のミスコン作戦は大失敗、しばらくはここに出入りしてもやることがないから違う場所に行くらしい。そうか、オレもエルザ様の手下になってくれるヤツを探さないといけない。「手下になってくれるヤツ」という時点で絶対にいない気がするが、探さないと殺されるので探す。プンプン怒っていた展子は、あれ?と言って横をついてきた。私じゃあかんの?姉様に会いたいわあ、としきりに聞いてくる。間違いなく殺されるので勘弁してくれ、と言うと「ほな、兄さんについていくわ」とぬかす。なんぼか楽しそうやし!ってオレはまったく楽しくない。お前が怖い。

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