太陽は嘘をつく
太陽は嘘をつく
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……その男は、退屈そうに私の話を聞いていました。口を開けば安物の喫茶店だと文句ばかり、世界有数と聞いていましたがそうは思えない。灰色の二つ名を持つ彼は、ある特殊な業界において比肩する者がいない。私の仕事は、魔導師。だいぶ前に滅んだ文化ですが、今もごくわずかにその力を持つ者がいます。彼もその一人。独学で自らの力を伸ばしたとのことですが、そんなことが可能なのかと聞いてみました。
「独学だから伸びるんだ」
彼曰く、知識はむしろ邪魔だそうです。自分のことは自分が一番わかる。みなが自分のことを知らないのは、誰も見ていないから。見ていないならわかるわけがないだろう、と語りました。見ればいいとだけ知っていれば、できない方が不思議だと当然のように言っていました。私は、彼に一つ頼み事をしました。
「見せてもらえますか?」
……彼は、嫌そうな顔を隠す風もなく、眉をひそめました。呼びつけておいて信用しないのか、とこちらを責めましたが、すぐに態度を変えて、そんなもんだろうな、と言い出しました。信じようとしていないわけではない。しかし、信じることもできない。この業界で信用は何よりも希少な価値を持つ。ご存じでしょう、と言うと、彼は自分の両手のひらを見せました。何度もしないぞ、と言って手を少しばかり広げた、そのときでした。
なんでしょう、悲鳴です。店の奥から。何事かと思って驚いていると、彼は聞きました。
「来る前に何かしたか?」
簡単な除霊、と答えると、あきれたように笑っていました。くだらない妖魔はすぐに徒党を組む。もっとくだらない妖魔を連れて、ついてきたんだ、と。奥からは鉄のさびた臭い。私には嗅覚として感じられるその存在は、さっき見ていた何かと同じだとわかりました。
突然の停電で、店内は真っ暗になりました。折しも夕暮れ時、目は暗闇に慣れず何も見えない。なんて巡りの悪い、と慌てる私に、彼は言いました。狙われたんだ。店の奥から迫ってくる何かが、強い臭いを伴って私に迫ります。鼻の曲がるような、私にだけわかる異臭が、牙をむく何かの存在を告げていました。それと同時に、なにか弾けるような音が聞こえました。
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……突然店内に、まばゆいほどの光があふれました。男が手を打ち鳴らすと同時に、暗い店内は閃光に包まれた。その光がわずかに弱まったとき、男は動きました。迫ってきた何かを叩き伏せ、皆の視界が戻ったときには、すべてが終わっていました。何があったのかと聞くと、私が見せろと言った、と不満げにこぼしました。それが彼の見せた、灰色の証拠です。
光と闇の転換魔法。この異なる二つの属性は本来片方しか使うことができない。ほとんどの人間が両手を同じように使えないのと同様、どちらかに偏っていく。それは魔導師も同じ、すべての魔導師は光と闇のどちらかに特化する。しかし……ごく稀に、両方を同水準で使いこなす魔導師がいる。歴史上に何人もいない「灰色の魔導師」は、当たり前のようにこの二つを裏返す。光を闇に、闇を光に。灰色のアルマは、こんなもの役にも立たないとつまらなさそうに語りました。
灰色のアルマは、席を立ちました。もういいだろう、と勘定を私に押しつけて店を出ます。なんでそんなことができるのかと聞くと、なんでできないのか不思議だと言います。何もしていないだろうと。なぜあなたは光の当たる場所にいないのかと聞くと、彼は最後に語りました。
「変わらないからだ」
光も闇も変わらない。だから出る必要もないし変える必要もない。そう言ってどこかに消えました。彼の言葉を聞いて、私にはおぼろげにわかりました。なぜ、歴史上にわずかに灰色の魔導師が現れたのか。なぜ何も残さずに消えていったのか。なぜ、私にはそれができないのか。彼はきっと今も、太陽の当たらないどこかを歩いているでしょう。月明かりでもあればいいのですが、彼にとってはそれも変わらないのでしょう。




