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《スピーカーオフ…よし。現在地点北21.84°、東142.16°。海上及び海中の異常なし。本艦各部位異常なし…っと、ある程度は安定しているな》
彼女たちにはまだ伝えていないが、この船はおよそ30分後に新オーストラリア海流に乗って珊瑚海を目指す。
新オーストラリア海流と言うのは過去の海抜上昇と硫黄島の激しい隆起により生まれた海流で、他の海流とは比べ物にならないほど速い。
そんなに便利な海流、使わない国なんてないと思うかもしれないが、この海流は周りに渦潮や台風、海竜巻といった気象現象が頻発するため基本的にどの国も立ち寄らない魔の海域となっている
場所によっては潮の流れと船の速度が合わさって四十〜五十ノットが出る海域だ。使えと言う方が無理である
そんな海流を今回は利用することにより1日で珊瑚海に進むといった魂胆だ
今現在宵闇がチリに向けて進行中だからな。急がないと手遅れになる
「艦長、食べ終わりましたよ〜!」
《スピーカーオン…おかえり。どんな感じだったんだ?ハンバーグカレーの味は》
「それはもう本当に美味しかったよ。久々に地上を思い出す美味しさだったね」
《美波の料理はいつも美味しいだろ》
「それはそうだけど…飽きちゃうじゃん…」
なんだか今日の海音はやけに正直だな。
まあ、そっちの方がお互い接しやすいし別に俺が突っ込むところじゃないからな
「美味しかったわ!さすがね」
《雫、そういうのは俺に言うんじゃなくて美波に言え。多分だけど犬みたいに喜ぶぞ》
「失礼な!私は猫派ですよ!」
《フフッ…さて、気分も入れ替えて清々しそうなところ申し訳ないが各自持ち場に着いてくれ」
「「…?」」
全員が俺の指示に疑問を持つような顔をしているが…
「あの、私たちは今自由時間ではないのですか?」
《すまない葵。俺たちには今やるべきことがあるんだ》
「了解」
《…本艦はこれより新オーストラリア海流に乗り
オーストラリア周辺海域まで急行する。各自、揺れに備えよ!》
「「了解!」」
これは俺の無茶振りにも疑問を持たず従ってくれる、不安な点があれば進言してくれる彼女らが仲間だからこそできる作戦だ。
《深度そのまま、機関最大で速力を最大の二十五ノットに固定。面舵を取れ》
「了解!深度そのまま、速力最大!」
「面舵いっぱーい!」
今は精神的消耗を極力減らしたいので彼女たちに船の制御を任せることにする
《新オーストラリア海流に乗るまで…十……………五、四、各自衝撃に備え!》
直後俺たちを襲うのは強烈なGと船の揺れ
やはり安定はしていない。だがこの感じだと宵闇はおろか、連合国側の船もいないだろうな
《海流に乗った。このまま海流に舵を合わせて取れ。葵、ソナーをよく確認してくれ》
「艦長!海流の流れが早すぎてノイズが入りすぎます!」
《その報告だけで十分だ》
「…?」
つまり、こちらのソナーが雑音しか拾えないほどうるさい海流の中にいる本艦を、敵艦がソナーで拾えるはずがないのだ
《安心しろ。俺たちのソナーは使い物にならない。だがそれは相手も同様。本艦の雑音は海流に揉まれて殆ど聞こえないはずだ》
断定はできないが―――――
などと言ってしまったら元も子もない。俺たちは、ただこの瞬間の自分たちの思いを信じるしか無いのだ
《警戒解除。あとの流れは俺が簡単にやっていく》
「…つまり?」
さすが雫、察しがいいな。
《各自の自由行動を許可する。尚、俺が再招集を掛けたらすぐに戻ってくるように》
「「了解!」」
…このまま、安全な航路が続きますように。そう願いながら艦内の時は流れていく
そうしてFSCが解除可能になる時間帯まであっという間に時が過ぎて行った
《只今よりFSCを解除する》
「「了解」」
「…よし、解除、無事完了。FSCは精神的消耗が激しいからな。今から一日〜二日は使わない方が良さそうだな」
「おかえりなさいませ、生身の艦長!」
「美波、頼むからその呼び方はやめてくれ…そろそろ本海流を抜けるはずだ。ソナーをよく確認しておくように」
「艦長、その話なのですが」
「ん?どうした?」
「…信じられないほど周りが静かです」
「静か…?おかしいな。まだ本艦は新オーストラリア海流を抜けてないぞ?」
そう言って現在地を確認しに行こうとしたその時
「…艦長、右舷二十五度、距離十五キロ先に反応があります」
「何だと?」
「…!?敵艦補足!宵闇艦隊所属の駆逐艦[架]です!」
…前言撤回だ。どうやら宵闇は俺たちのことを逃す気はないらしい




