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眩しい日光によりアスファルトが熱されて、地を這うようにうねる陽炎
この日本特有の蒸し暑さに嫌気が刺してきたが、そんな夏の憂いを海風が少しだけマシにしてくれている
『今日の最高気温は38度を上回る見込みで…』
こうして地に足をつけて、ニュースをなんとなく聞きながらアイスを食べるのもこれで最後なのかもしれないな
「艦長、行きましょう」
「あぁ、そうだな」
伊号第十三潜水艦に配属された艦長として、己の意思で動いた人間として役目を終えるまでは―――――
―――――突如として現れた謎の技術を持つ艦隊「宵闇」によってアメリカ海軍の半分の戦力が壊滅、それほどの被害が出た大規模な海戦であるにも関わらず、相手の損傷はゼロ
宵闇は戦艦が6隻と何の武装もない甲板が長くてデカい艦が5隻と駆逐艦12隻と潜水艦が4隻からなる大艦隊で、そいつらは俺たちの知らない技術を幾つか持っているのだが、その中でも特筆すべきは空を飛ぶ魚雷と空を飛び爆弾を落としてくる機体がある事と、レーダーが反応しないという異常な能力の3つだ。
そして最後に、宵闇が戦闘をする時は必ず夜戦であり、戦闘終了後に必ず夜の向こうへと消えていくのだそうだ
俺達が所属している世界連合にもヘリコプターとか言う空を飛ぶ機体があるそうだが、まだ実験段階で実用には至っていないと言う。
空を飛ぶ鉄の塊が気付けば目の前から見えなくなるほどの速度で飛んでくるのだから恐ろしい
このような異常な事態を前に世界的に海軍が強い日本とドイツとチリとアメリカの4カ国は同盟を結んだ。その同盟の内容と言うのが大まかに二つ。一つ目はお互いの「宵闇」に対する情報を無条件で公開する事。二つ目は宵闇側に何があろうと与さない事。
そうして結ばれた同盟だったが、前述した通りアメリカは海軍が半壊し、チリも現在進行形で攻められている
チリによる協力要請が出ていないからまだ手は貸さないなどと上層部は言っているが、今の情勢を見れば他国に助けを求めるほどの余裕がチリにはないことぐらいわかるだろうに
『協力要請が出ていないからと言って出撃命令を出さない上層部どもは腐っているな』
…そんなことを司令官に言ったら
「伊13はもう古いんだ。いくら第二次世界大戦後色んな改装をしたからと言ってお前達を海に駆り出そうものならお前達の命が危ない。だから大人しくいうことを聞け」
と言われてしまった。懲戒処分が出なかっただけ有難いと思えと同僚に言われたが正直納得できない。沈む時はどんな良い作戦を練っていようが沈むのだ。相手の策が俺たちの上を超えてきたのなら
だが、今となってはそんな同僚とも話せない立場にいる。なぜなら…
「艦長、私たちどうするんですか?勝手に伊13に乗ってこんな所まで来て…バレたら懲戒解雇じゃすみませんよ…」
「バレたらって、もうとっくにバレてるに決まってるだろ」
俺と一緒に話しているこいつは砲雷科の伊藤海音。俺の中学校からの同級生で基本外出する時は一緒に行動している
…俺は国として戦える立場にいるのにも関わらずチリはおろか誰も俺たちを必要としないこと、そして協力要請が出ていないからと言って何もせずただ突っ立って見守るだけと言うのがとても辛かった。だから司令の助言に背き勝手に海に出たのだ
つまり、簡単に言ってしまえば命令違反だな。軍の艦を勝手に使って脱走したという点を見れば国家転覆罪などと騒がれたりしても文句は言えないが
「どうするんです?原子力潜水艦のように食料さえあれば幾らでも潜れる訳でもないんですよ!?」
「原潜だって食料や燃料、装備を無限に持てる訳じゃない。そこは俺たちと同じだろう?」
「それはそうですが…」
俺は傍から見たらとても落ち着いているように見えるだろうが、実際とても焦っている。通常動力でどうやって原子力に打ち勝てば良いんだ…?そりゃバッテリー駆動時なら静音性はこちらの方が上だろうがそれでもバレるのは時間の問題だ
「日本とハワイに俺の昔からの友人がいる。物資などはそいつらに流してもらうさ」
「それもです!バレるのは時間の問題ですよ!もしその友人の行いがバレたら…」
「海音、最悪な結末を今考えた所で結局現実は変わりやしないんだ。それなら上手くいった未来を想像する方が幸せなはずだ。そしてもっと俺たちを信じろ」
「…そうですね」
「さて、立ち話もこれぐらいにして、そろそろ船のほうに戻ろうか」
「艦長、今日はカレーだそうですよ!」
「…またカレーか」
「いいじゃないですか!私は好きですよ」
「三日連続で飽きないのはお前だけだよ」
今俺たちの乗っている改伊13は終戦後から今日にかけて大きく手を加えられてきたもので、その中でも水中抵抗の削減を狙いで機銃やクレーンなどの撤廃を行い、本来なら高速艇が格納されてあった格納庫や艦の拡張によってできたスペースを使うことによってAIPが設置された。その時が一番大きい改造だったと思う
「俺達が第二呉軍港を出る時に詰めるだけ資源を詰め込んで出たと思うが、1日ニ食でどれぐらい持ちそうだ?」
「…1ヶ月ほどですね」
「なら十分だ。その1ヶ月間でチリを助けてチリから協力を得るぞ」
「!?…それは流石に無理のし過ぎでは?」
「俺の昔の先生が言ってたんだ。実力が無いのに夢を見るのは虚しいだけだが、実力があるのに夢を見ないのはさらに虚しくて愚かだと。俺はそれに従うよ」
「つまり…」
「…あぁ。俺たちには鍛え抜かれた体と知識とこの船がある。己を信じ船を信じて、この戦場を生き抜き、そして日本に帰ろう。もしその時、俺が国家反逆罪で死刑になろうとも」
俺たちの航行は、これから始まる
なにか間違っている箇所があればご指摘願います。




