第1章 森で目覚める
AIで書いて見ました
朝霧が薄い。濡れた土の匂い。鳥の声。私は仰向けで、知らない木の天井を見ていた。胸の奥で、熱が脈を打つ。
「起きられる?」
横から声。若い男がしゃがんでいた。外套の肩は刃で白く擦れている。
「ここはどこ」
「塔都の外れ。森の縁だ。立てるか」
「……立てる。任せて」
膝に手をついて立ち上がる。世界が一瞬、二重にぶれた。胸の印がかすかに光る。
『借りる? 返す? まだ足りない』
白い囁きが耳の内側を撫でる。
「今の、誰?」
「誰に言った」男が眉を寄せる。
「わからない。声がしただけ。――あなたは」
「カイト。剣は使える。お前は?」
「私は……支援、かな。覚えてないけど」
草むらが割れる。顔を布で隠した者が三人。刃こぼれの剣と短い杖。
「刻印、よこせ」
「話が早いな」カイトが一歩前に出る。「下がって」
「いや。間合い、詰める」
「無茶はするな」
「任せて。合図を――今」
「**強化**」
息に重ねて囁く。軽い。視界が澄む。カイトの踏み込みが一段速く見える。
「効いてる。行く」
一人目が杖を突き出す。火花。私は胸の熱を指先に流した。
「**偏向**」
火花の軌跡が逸れて木肌を焦がす。
「なにをした!」
「内緒」
カイトの刃が短く返り、金属の音が弾ける。
「二人目、右だ」
「任せて。――**冷却**」
空気が沈み、相手の手が震える。剣が草むらに落ちた。
「ふざけるな!」三人目が背に回る。
「カイト、下がって」
「了解」
「**保護**」
目に見えない膜が弾け、投げ石が頬をかすめず逸れた。
「今!」
カイトが踏み込み、柄をはたく。相手の膝が落ちる。
「終わり?」
「逃げる気だ」
三人は罵りながら散り、森が静けさを取り戻す。
『いいね。借りるのが上手い』
「借りてない」私は小声で返す。
『じゃあ、返してる。帳面は動いたよ』
「帳面?」
「誰と話してる」カイトが肩で息をしながら言う。
「白い声。たぶん、契約の――なにか」
「関わるな。契約は因果を食う」
「食う?」
「払うのは、お前だ」
「それでも、助けられるなら」
「偉いが、順番を選べ」
カイトが顎で示す。「襟を。刻印、見せてみろ」
私はためらい、少しだけ下げる。
「……逆だな」
「逆?」
「普通は外へ流す。お前のは内へ集める。支援術師の、珍しい型だ」
「支援しか、ないよ」
「“しか”が強い。さっき証明したろ」
遠くで鐘が鳴る。くぐもった音が霧を叩く。
「鐘?」
「査問の合図。教会が来る」
「捕まる?」
「転移者と未契約の刻印は面倒だ。条文が厳しい」
「禁忌、だよね」
「ああ。だが条文には小さな※がある」
「脚注?」
「読むやつは少ない。※は、抜け道にも罠にもなる」
『※は優しい。君に都合がいい』白い声が笑う。
「信じない」
『じゃあ試す? 二語で署名。簡単』
「嫌」
『まだ足りない』
声は霧と一緒に薄れた。
「走るぞ」カイトが鞘を鳴らす。
「戦わない?」
「今は逃げて、選ぶ。任せろ」
「任せて」私は頷く。
「――**加速**」
世界が半歩のびる。足音のリズムがそろう。
「お前、詠唱の息が短い。癖だな」
「そう?」
「良い癖だ。間を切るのに向いてる」
斜面を下り、枝が頬をかすめる。霧が薄くなり、遠くに石の塔が見える。鐘はそこからだ。
「塔都まで行ける?」
「行ける。足は任せて」
「前、三人。気づかれた」
「隠れる?」
「無理だ。合図」
「今」
黒外套が茂みを割って出る。胸章。教会の査問官。
「止まれ。刻印を見せろ」
「嫌だ」
「命令だ」
「お願いはないの?」
「ない。禁忌条文――」
「※は読んだ?」
「……なに?」
「脚注の話。小さくて、見逃すと痛い」
査問官の目が細くなる。「口が減らないな、転移者」
カイトがささやく。「数が多い。間合いを広げる」
「任せて。――**偏向**」
突き出された杖の火線が逸れ、枯れ枝だけを焦がした。
「前、二歩」
「二歩」
「右、斜め」
「斜め」
刃が鳴り、短い詠唱が交わる。私は息を刻み、切り目ごとに支援を挟む。
「**強化**」
「**保護**」
「**冷却**」
言葉は少なく、効果は速い。カイトの動きが紙一枚ぶん軽く曲がり、相手の刃が一瞬だけ鈍る。
「まだ来る」
「任せて。間合い、詰める」
「詰めるな。詰めるなら、一気に」
「一気に」
私は胸の印を指先でなぞる。熱はあるのに、痛くない。
『二語でいい。君は上手い。借りて、返して、均す』
「黙って」
『まだ足りない』
声は嬉しそうに反響する。
査問官たちが合図を交わし、陣を変える。包囲。
「悪い並びだ」カイトが低く言う。
「どうする」
「逃げる。だが足りない」
「足りない?」
「切り抜けるには、もう一押し。――頼めるか」
「任せて」
「**共援**」
初めての言葉が口から零れた。意味はわからない。けれど、届いた。
空気が一拍だけ澄み、私とカイトの足音が完全に重なる。刃の軌跡と視線が一本にまとまる。
「今!」
「今!」
包囲に細い穴が開く。私たちは滑り込み、茂みを抜ける。背後で怒号。火線。
「まだ追ってくる」
「塔都までは保たせる。任せて」
「助かる」
胸の印が淡く脈を打つ。逆向きの矢印が、内へ内へと集める。
『いいね。君は支援しかない。でも、それが一番強い』
「強いのは、こわい」
『こわさは、預かれる』
霧が切れ、石畳が見えた。鐘が止む。
私は息を整える。カイトが横目で問う。
「署名はしてないな」
「してない。……今は、まだ」
――塔門の影に、黒外套とは違う白い影が立っていた。
――私の刻印が、見たことのない色で一度だけ跳ねた。
どうなるのか私にもわかりません。