賛辞
知らない天井を見上げていた。
かろうじて、自分が横になっていることがわかる。
左肩が鈍く痛む。
そうだ、確か帰り道で撃たれて…
見上げる天井に見覚えはなく、察するに病棟であると考えられる。
とりあえず、死なずに済んだことを喜ぶべきだろう。
左手が何者かに握られているのを感じる。
痛む体をなんとかして起こすと、ベッドの傍らでエレナが椅子に座っていた。
「起きたか、ルイス」
「大佐…ここは?」
「中央の軍事病院だ。通りで倒れたお前を、市井の方々がここまで運んでくれたんだ」
「そう…ですか」
怒られる、そう思った。
気をつけるよう言っておきながら、自分が獲物になってしまった。
心配をかけただろう、迷惑をかけただろう。仕事があっただろうに、わざわざ来てくれた。
申し訳なさと不甲斐なさで、自然と顔が下がってしまう。
「申しわけありま…!?」
俯きながら発せられた謝罪の言葉は、突如ルイスの両頬を挟む手のひらによって遮られた。
そのまま顔を上げさせられると、エレナの緋色の瞳と目が合う。何を言うでもない時間が、数秒続いた。
「よくやった。ルイス」
不意に言われた、賛辞の言葉。
ルイスはその意味が理解できず、更なる困惑に陥った。本来ならば、自分は叱られるべきであるはずだ。
「襲撃に遭いながら生還したこと、群衆の中に逃げると言う判断、どれをとっても素晴らしい。よくやった。ルイス」
たまたまだ、生きてたのも、大通りに逃げたのも。
仕事ができた、出世した、それらと同じように、ただ生きのびただけで讃えてくれる。
エレナの両腕はそのままルイスの後方に伸び、ルイスの体を優しく抱き寄せた。
「生きててくれてよかった…ルイス」
エレナは、ルイスのことを見てくれている。求めてくれている。
エレナの温もりが、声が、ルイスの心を揺さぶった。
いつのまにかルイスは、エレナの胸で泣いていた。
声を出すこともせず、ただ静かに泣いた。
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