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帝国陸軍元帥

見渡す限りの人が、前を通る車に歓声を上げている。

豪奢なオープンカーが通る道を挟むようにして、民間人の群れが形成されている。


「すごい歓声ですね」

ルイスは、建物の中から、その歓声の群れを見下ろしていた。


「まあ、ここにいる人間の九割は、あの車の中の人物を知らんだろうがな」

同じく見下ろしていたエレナは、皮肉ぶった調子でつぶやく。


人の群れに挟まれた車の中から、豪華な服を着た人物が手を振っている。

この国の礼服とは大きく違うそれから、一見して異国の貴人であることがわかる。


その正体は、シルリア帝国の西に位置する同盟国。クハライの総統閣下である。


今日は帝国側はお招きする立場であるため、このようにして軍人は警備に当たっているのだ。


幸い、総統閣下を襲う輩は今の所見ておらず、予定通り会合は無事開かれそうだった。

隣ではエレナが、退屈そうに通り過ぎる車を眺めていた。


車が完全に通り過ぎた後でも、爆発物設置などの可能性も考えて、持ち場を離れずにいるよう命じられている。

よって、会合の間の数時間は、ここで監視という名の退屈をしてなければならない。


ただ待つのはつらくはない。憂鬱なのは、この後も事務仕事があると言うことだ。

ルイスよりも仕事が多いエレナからも、陰鬱な不満が漏れ出ている。


頼むから問題は起きないでくれ。


珍しくも、エレナの思考を読むことができた瞬間である。


「すまないが、食べ物を買ってきてくれ。お前の分の金も出してくれていいから」

エレナが財布を取り出しながら言う。


時刻を見てみれば、既にお昼時である。

ちょうど退屈してきた頃で、このお使いはいくらか気が晴れる。

二つ返事で了解してビルを出ると、通りには未だに多くの人が残っていた。


人だかりを横目に近くの売店に足を踏み入れる。


手早く商品を選び取り、勘定へと進む。勘定台に商品を置くと、横から太い腕が現れた。


その太い腕は台に弁当を置くと、ルイスの商品の代金も含めた金を、店員に差し出した。


予想外のことに驚きながらも、後ろを振り向く。

そこにいたのは、軍服に身を包んだ六十代ほどの男性がいた。

胸元の星章から、階級は「大将」であることがわかる。


「えっと…」

「何、気にするな。一遍に会計した方が都合が良い」

呆気に取られている間に会計を済ませると、「ほれ」とルイスが選んだ商品を手渡した。


「いや、お金払いますよ」

「結構だ。これでも、陸軍全軍を指揮する立場にあるのでね。たまにこうして格好着けとかなければな」

そう言いながら快活に笑う姿を見て、ルイスはようやく思い出した。


「…陸軍元帥のシャーダウッド大将ですか?」

「如何にも」


帝国陸軍元帥、カリス・シャーダウッド

陸軍司令の全権を任された、皇帝を除く事実上の陸軍のトップ。

そんな方が…

「何故ここに?会合に行くはずじゃ…」


「式典なのでな。私の席は無いのだよ」

口元に携えた髭に触れながら、カリスは何故か誇らしげに言う。


この男が、エレナの父親。


一連のやり取りの中で、そのことばかりを考えていた。


「…ところで、貴官の名前は何かな?」

ここでようやく、ルイスは上官に対して未だに名乗っていないことに気づいた。


「失礼しました。ルイス・ベルデンです。御息女であるエレナ大佐の補佐官をしております」


「エレナ?…あぁ、世話になってるよ」

「あ!そういえば、エレナ大佐に昼食の使いを任されていました。ここで失礼します」


敬礼をすると、足早にその場を離れる。

想像よりも、随分気さくな方だと思った。やはり、エレナの父親だけあって、優しい人物なのだ。


「遅かったじゃ無いか」

「少し立ち話をしまして、これお金です」

「そのまま返されているじゃ無いか。使わなかったのか?」

「えぇ、シャーダウッド元帥に出してもらいまして、よろしくお伝えください」


その瞬間、エレナの顔が途端に硬直した。

まるで、説教を待つ子供のように。怯えてるようにも、見えた。


「…元帥は、なんて仰っていた」

「え?世話になっていると…」

「そうか…」


そう言って体の硬直を解くと、ルイスの手から昼食を受け取る。


その時、エレナの原点であり根幹となる部分を、見てしまった気がした。












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