エレナ 16歳③
士官学校は、2年の教習と2年の実習というカリキュラムで構成されている。
士官学校二年の冬、社会主義国ナウリアとクハライとの間で、世界大戦の火蓋は斬られた。
その時の士官学校生は、実習期間でない一、二年も、戦地に駆り出されることになった。
「エレナ•シャーダウッド、これがお前のドッグタグだ。戦地ではこれがお前の身分証明書となる」
教官から渡された2枚の金属片は、あまりにも冷たくて、そして軽かった。
自分が「エレナ」であることの証として、相応であると思った。
士官学校生は主に衛生兵として働くとはいえ、戦地である以上爆撃の危機にいつも晒される。
自分が骨だけになった時、この金属片が自分を帝国兵にしてくれる。
最初に飛ばされたのは、クハライとナウリアの国境近くの密林。湿った空気が気持ち悪いそのジャングルで、エレナはエラルフィアと共に衛生兵として従事した。
「男だらけの場所に行って襲われない?大丈夫?」
と、エラルフィアは心配していたが、現地の兵士はそんなものとは無縁な、紳士的な人たちばかりだった。
「俺らの故郷に、君と同じ赤髪の娘がいるんだよ。みんなの妹みたいな存在でさ、大きくなったら君みたいになるのかな」
兵士の一人が、食事の時間に話してくれた。
聞くと、この戦地には同郷の友人達5名で徴兵で来ているらしい。日々神経を張り詰め、敵国の攻撃に備えているからこそ、こういった食事の時間にその緊張が解けるのだろうか。
戦況は時間が経つにつれひどくなり、次第に夜中聞こえる銃声が大きくなっていった。
次第に、兵士が死体になって帰ってくる間隔が、一週間になり、3日になり、1日になった。
椀に汁をよそった兵士が、翌日冷たくなって帰ってくる。治療を施した兵士が、次の日足を失って帰ってくる。
頭の狂った兵士を何人も見た。
エレナも、頭が狂いそうだった。
自身が想像していた兵士とのギャップ。日々鼻につく血の匂いが、父を含む軍人の凛々しい姿を霞ませた。
兵士と軍人は違う。軍人は、百の兵士を犠牲にして、百一の敵兵を殺さなくてはいけない。百の自国兵の、意思も、家族も、心も命にも目を背けて。
「エラルフィア特別准尉、異動の命令だ」
「え?」
開戦から一年が経ったある日、兵士が手紙を届けにきた。
内容は、エラルフィアに戦地の移動を命じるものだった。
「急だよ。こんな…」
「行くしかないだろ。文章からして、あっちはかなり人手不足らしいし」
「でも…」
「私のことなら大丈夫。何とかやっていけるよ」
エラルフィアの考えてることにあらかじめ反論すると、エレナは懐から一枚のドッグタグを取り出す。
「それに、二人別々の場所にいれば、どっちかが生き残れるかもしれない」
そういって、エレナはドッグタグをエラルフィアに差し出す。
「…わかった。でも、生きてまた会おうね。約束だよ」
エラルフィアはそれを受け取り、自らのも一枚エレナに差し出した。




