エレナ 16歳①
壇上に、一人の少女が立っていた。
小柄な体格やあどけない顔立ちから幼く見えるが、この少女は間違いなく、ここに並ぶ百余名と同じく16歳である。
彼女の口から語られるのは、士官学校に入学したことへの喜び、そして決意だった。
彼女は、この士官学校に首席で入学した才女である。
近年、帝国では女性軍人制度が導入され、男子とは違う試験方式、合格基準での士官学校への入学が許されるようになった。
当然、この制度では男子より女子の方が試験の合格基準が高い。
昨今の女性の権利向上の煽りを受けているとはいえ、国の要となる出生率を下げることは許されないからだ。
そんな中で、女子が首席入学を果たした。なんら不自然なことはないが、向けられる視線に、敵視、羨望、興味が含まれていることは、当然のことだった。
皆の興味が尽きる頃、彼女はその誓いの言葉を締める。曰く
「以上を持ちまして、入学生誓いの言葉とさせていただきます。入学生代表、エレナ•シャーダウッド」
入校式が終わると、すぐに最初の講義が始まる。エレナは講義室の端に座り、一人講義を待っていた。
4年間、この数字に、エレナは何の期待もしていなかった。父に少しでも見てもらいたいと、目指した軍人への道。所詮通過点であるこの4年間がどうなるかなど、エレナは気にしていなかった。
気になることがあるとすれば、先ほどから幾多の視線を感じることだ。純粋な興味を感じられるものもあれば、敵視されていると感じるものもある。
女が制服を着ていることが、そんなに珍しいのだろうか。
「シャーダウッドさん」
ふと背後から声をかけられた。優しく品のある、女性の声だった。
背後を見てみれば、束ねた長い髪を肩にかけた、背の高い女性がいた。頬に、美人には似合わない大きな絆創膏が貼られていた。
朗らかに笑みを浮かべており、敵意を感じさせないその笑顔が、すぐにエレナの警戒を解いた。
「私、エラルフィア•アルクイン。よかったぁ、話せる女子がいて。同室だから、よろしくね」
「よ、よろしく。アルクイン…さん」
「エラルフィアでいいよ。呼びにくかったら別の名前でも。私もエレナって呼んでいい?」
自分のペースで楽しそうに話すエラルフィアは、こちらが戸惑っているにも関わらず隣の席に座り、距離を詰めてくる。
「その…絆創膏、大丈夫?」
「あぁ、これ?」
そういって、頬の絆創膏に触れる。
「今朝ここにくる前に、親父と派手に喧嘩したんだ。古臭い親父でさ、最後まで軍に行くことに反対してきたんだよ」
不機嫌そうに言うエラルフィアが、どうしても違う人種のように思えてしまう。父親と喧嘩、これからも、この先も、きっと縁がない言葉だろう。
「どうしたの?なんかあった?」
自身とエラルフィアの違いを考え、陰鬱になっていたのだろう。エラルフィアが心配そうに尋ねてきた。
「私は、自分の気持ちを父親にぶつけたことがない。明るい貴女と陰気な私とでは、きっと貴女もつまらないだろう」
そう言って、エレナは席を立った。
別の席に移ろうとするエレナは、エラルフィアに腕を掴まれて立ち止まった。
「私は、貴女とおしゃべりがしたいな。父親とか関係なく、貴女に興味があるの。つまらなくなんかないよ」
否定ばかりされてきた人生だった。何をどれだけ頑張っても、父親からは認めてもらえなかった。
友も、何かを話せる大人もいなかった。あったばかりで、無条件に自分を肯定してくれる存在が自分の中でうまく像を成さず、目の前の彼女が光で見えなかった。
後に振り返ってみれば、何の期待もなかった4年間が鮮やかに思い出せるのは、このエラルフィアという友がいたおかげであろう。彼女の光が、失いかけていた色を思い出させてくれた。




