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05 エルフ、縛り上げる




 私は男どもを一人残らず縛り上げていきます。


 その間リナは黙っていましたが、やがてポツリと口を開きました。


「……レザリア。助けてくれて、ありがと」


「……いえ。たまたま通りがかっただけですので……」


 私は追放された身。リナに向けられる顔はありません。この暗闇の中、去っていくのが自然でしょう。


 最後の一人を縛り上げて男たちを縄で繋ぎ、私は息をつきます。本当ならリナに気づかれずにことを済ませたかったのですが——。


「……でも、リナ。防音魔法で音は聞こえなかったはずなのに、どうしてテントの外に?」


「あー、うん。トイレに行きたくて」


 ガクン。何ということでしょう。男たちの襲撃さえなければ、リナのトイレイベントを草葉の陰から眺めることができたというのに。


 地面に突っ伏し、床を叩く私。リナは首を傾げて私に言います。


「何してんの、レザリア。今、灯りつけるね」


「あ、今は」


「——『灯火の魔法』」



 ——洞窟内を灯りが照らします。真顔で私を見つめるリナ。はぁ……久しぶりに至近距離で見ますが、更に可愛くなってないですか?


 リナは半目で私を見据えます。



「ねえ、レザリア」


「はい」


「……なんで裸なのかな?」



 そうなんです。今の私は全裸に矢筒をたすきに掛け、束ねた縄を肩に掛けている状態なのです。


 いろいろと言い訳を考えますが、困りました、何も妙案が思いつきません。


 更に私は今、一ヶ月の禁欲期間中——ふふ、どうやら開き直るしかないようですね。


 私は縄を両手に持ち、無言でリナに近づいていきます。後ずさるリナ。大丈夫です、優しくしますゆえ……。


「——エルフ流束縛術……」


「ストップ、レザリア!」


 ピタ。条件反射で私の身体は止まります。リナは唾を呑み込み、上目遣いで私を見上げました。


「……あの、私、縛られるより縛る方が好きだから……」


「…………!!」


 ああ、何ということでしょう、性癖が合致しました! 私は手に持つ縄をリナに渡し、服従のポーズをとります。


「さあ、リナ、心ゆくまで縛ってくださいませ!」


「……はは。じゃあ動かないでねー」


 リナは私を縛り上げていきます。ふふ、リナが私を受け入れてくれるなんて。縛り方はぎこちありませんが、まあそこは追々——。


「ふふ。リナぁ、これじゃピクリとも動けませんよぉ」


「そ、よかった。じゃあ——」


 リナはテントの中に入って行きます。


「ライラ、カルデネ、急いで起きて! 変態から逃げるよっ!」


「はい?」


 えっ、ちょっと待ってください。放置ですか? 放置プレイですか? まあリナが望むというのならこのレザリア、いくらでも付き合いますとも。



 ——やがて憐れんだ視線で私を見ながら去っていく『白い燕』の三人。私は一人、取り残されます。



「……ふふ。リナぁ、いつまでも待ってますよぉ」



 リナとの幸せな一夜を想像しながら眠りにつく私。半日後、私を迎えに来たのは警備兵の人たちでした。








「——申し訳ありません、リナさん、ライラさん、カルデネさん。ギルドの調査不足でした」


 ギルドの受付嬢クロッサは、平身低頭『白い燕』に謝罪をしていた。リナはブンブンと手を振って頭を上げるように促す。


「いいんです、いいんです! 私たちは何もしていないですし! 結果的に悪い奴が捕まってよかったです!」


「そう言っていただけると助かります。今後はこのようなことがないよう、重々注意いたしますので——」


 パーティ『白い燕』に入った指名の依頼は、復讐を狙う組織の罠だった。最初は気落ちしていた三人だったが、ギルドから別口で報酬が出るとのことなので安心している次第である。


 リナは小声でクロッサに尋ねた。


「——それで……私たちの仲間だったレザリアは、この一ヶ月、どこで活動してましたか?」


 その質問を受けたクロッサは、パラパラと本をめくり小首を傾げる。


「ええと……ギルドカードの位置情報から、リナさんたち『白い燕』と行動を共にしていますが……」


「……やっぱり」



 やがて受付を離れた三人は、テーブルにつき話し合う。


「やっぱ、そうだったね。レザリア、私たちのあとを尾けていたみたい」


「だよねえ。レザリアいなくなってから戦闘は大変だったけど、一回もピンチにならなかったもん」


「じゃあ、リナ。『白い燕』の名前は?」


 カルデネの問いに、リナは苦笑をしながら答えた。


「うん。もしレザリアが他の人とパーティを組んだり冒険者を引退したりしたら、『白い燕』は名前を変えようと思ってたんだけどね。まだ私たちは、『白い燕』だ」


 リナは思い返す。あの日、レザリアと頑張って考えたパーティ名『白い燕』。そのスッとくる名付けに、二人でハイタッチをして喜びあったことを。


「……だから、いつかあの娘が反省して戻ってきた時のために、この名前は残す。その時は皆んなも受け入れてあげてね」


「うん! 私はリナがいいって言うんだったら全然いいよ!」


「ふふ。あの性格、直るのかな?」


 口元を押さえて笑うカルデネに、リナは肩をすくめる。


「直って欲しいねえ。そしてあの娘さえよければ戻ってきて欲しい。だってレザリアは——」


 リナは頬杖をつき、微笑んだ。



「——誰にも負けない、最高の射撃手だから」









 大変です。ここは留置所です。私は何故か捕らえられています。


 私は私の様子を見にきた髭面の騎士さまに尋ねました。


「あの、私は何で捕らえられているのでしょう?」


「ああ。リナちゃ……ゴホン、いや、公の場で裸になって女性を襲おうとしてたんだろ? 犯罪者を捕まえてくれたのは感謝してるが……少しは頭を冷やしたらどうだ」


「いえ、あれは合意の上でしたので」


「合意でも野外露出はダメだ。まあ組織壊滅の功績から、反省すればすぐに出してやる。少しおとなしくしててくれ」


 そう言い残して髭面の騎士さまは去っていきました。私は格子から見える満月にリナの顔を重ねます。



「……うふふ。リナぁ、少し待っててくださいね。必ずやこのレザリア、あなたの元に馳せ参じますゆえ——」




 いずれ私たちは世界を救うことになるのですが、まあそんなのはついでです、ついで。


 私は月明かりの差し込む部屋の中、想い人を想い、身体をくねらせるのでした。





 fin


お読みいただきありがとうございます。


今作は「ライラと『私』の物語」の別の世界線の物語となっております。

このあと続くかは不明です(構成はある)。書くとしても本編完結後でしょうか。なのでいったん完結とさせていただきます。


お時間をいただきありがとうございました。またどこかでお会いしましょう!


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