04 エルフ、迎撃をする
†
男たちは進む、粛々と、闇に包まれた洞窟を——。
「……それで、『探知魔法』の結果は?」
「へい。洞窟の最奥部にかたまってるようです。動きがないので、そこで夜営してるんじゃねえかと」
「わかった、灯りはつけるな。おい、念のため『暗視魔法』を全員に唱え直しておけ——」
その数、総勢二十人。一切の視界が阻まれた暗闇の中を、彼らは進んで行くのだった——。
†
ピク。
すわ突撃とテントの入り口に指をかけた私の耳が、迫り来る危機を感じとります。
——複数の足音。魔物ではない、二十人前後の集団。歩き方のクセから感じるに、人間族を中心とした集団でしょうか。
(……冒険者?……いえ、この音を殺そうとする歩き方は……)
どちらにせよ、警戒するに越したことはありません。私は息を吐き、弓矢を取りに戻るのでした。
やがて集団はやってきました。私は岩陰に隠れ、男たちを観察します。
「お頭、見えてきました」
「ああ。一気にふんじばるぞ」
なるほど。男たちの顔に何人か知った顔があります。どうやらこの人たちは、以前に私たちが壊滅させた『人身売買組織』絡みの者たちのようです。会話から察するに、報復でしょうか。
なら。私はゆらりと男たちの前に出ました。
「……まったく、せっかくのチャンスが……まあ、時間はあります。早いとこ片付けて……」
「だ、誰だ、テメェは!……いや、テメェは……」
ボスらしき男を筆頭に、集団に動揺が広がります。皆が口々に「何で分かったんだ……」「見えているのか……」「なんで裸なんだ……」などと申しております。
まったく、質問の多い人たちですね。でも、それに答えるのにはたった一つの事実で十分です。なぜなら私は——。
「——闇も、隠した足音も、私の前では意味をなしません。私は誇り高きエルフ族、レザリア。レザリア=エルシュラントです。以後、お見知りおきを」
「構わねえ、全員で一気にやっちまえ!」
ボスらしき男の号令がくだります。騒がしいですね、テントには『防音魔法』を掛けておいたので大丈夫でしょうが——。
——トスッ、トスットスッ
まずは第一射。同時に放たれた三本の矢が、先頭の三人の足を射抜きます。
「ぐおっ!」
悲鳴を上げ転がる三人。後続の者たちの一部はそれにつまずき転がります。どうやら『暗視魔法』を掛けているようですが、夜目の効くエルフの視界には遠く及ばないみたいですね。
「……ふふ。リナが近くにいますゆえ、命までは取りませんが……あなた達、遅すぎますよ?」
——トスッ、トスットスッ
「うぎゃ!」
続けて三人。おや、集団から魔力の波動を感じます。魔法でしょうか。でも——。
「——撃たせませんよ」
——トスッ、トスットスッ
魔力を高めていた二人と、ついでに一人。しかしその隙に、私の横を通り抜けた者がテントに向かって行きました。
私は矢をつがえ振り向きます。
「行かせるわけ——」
「……その声……レザリア?」
何ということでしょう。振り返った私の目に映ったのは、寝ぼけ眼をこすりながらテントから出てくるリナの姿でした。いけません、この暗闇では彼女は——。
「おとなしくしやがれ!」
「……ぐっ……誰よ、あんた……!」
射線上の彼女に気をとられ一瞬躊躇した隙に、一人の男がリナを捕らえてしまいました。くっ、このレザリア一生の不覚。
私はとりあえず背後から来る三人を射抜き、リナの元へと駆け寄ります。
「リナぁ!」
「動くな! 動くとコイツがどうなるか——」
「リナぁ!」
私は走りながら自分の荷物を拾いあげ、真っ直ぐ男に駆け向かいます。
「止まれ、止まれよおっ!」
「とうっ!」
私は構わず男に飛び蹴りを喰らわします。衝撃によろめいてリナを解放する男。よし、今です。
「——エルフ流束縛術、壱ノ型・夕凪!」
ビシッ。
リナに手を出そうとした不埒な男は、私の奥義により一瞬にして簀巻きになりました。ふう、危ないところでした。
しかし——見るとリナも地面に倒れているではないですか。軽く咳き込んでいるリナ。私は振り返り、残党どもを睨みます。
「……よくも……よくも私のリナを……」
「……え? は? あんたが……」
「許しませんっ!」
洞窟内に矢が乱れ飛びます。そして最後、ボスらしき男を——
「——エルフ流束縛術、零ノ型・明鏡止水!」
「うぎゃああぁぁっっ!」
「……フッ。あなた方より獣の方が、よっぽど歯応えがありますね」
——こうして報復を狙った組織の残党どもは、今度こそ壊滅に至ったのでした。