表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/5

04 エルフ、迎撃をする





 男たちは進む、粛々と、闇に包まれた洞窟を——。



「……それで、『探知魔法』の結果は?」


「へい。洞窟の最奥部にかたまってるようです。動きがないので、そこで夜営してるんじゃねえかと」


「わかった、灯りはつけるな。おい、念のため『暗視魔法』を全員に唱え直しておけ——」



 その数、総勢二十人。一切の視界が阻まれた暗闇の中を、彼らは進んで行くのだった——。







 ピク。


 すわ突撃とテントの入り口に指をかけた私の耳が、迫り来る危機を感じとります。


 ——複数の足音。魔物ではない、二十人前後の集団。歩き方のクセから感じるに、人間族を中心とした集団でしょうか。


(……冒険者?……いえ、この音を殺そうとする歩き方は……)


 どちらにせよ、警戒するに越したことはありません。私は息を吐き、弓矢を取りに戻るのでした。




 やがて集団はやってきました。私は岩陰に隠れ、男たちを観察します。


「お頭、見えてきました」


「ああ。一気にふんじばるぞ」


 なるほど。男たちの顔に何人か知った顔があります。どうやらこの人たちは、以前に私たちが壊滅させた『人身売買組織』絡みの者たちのようです。会話から察するに、報復でしょうか。


 なら。私はゆらりと男たちの前に出ました。


「……まったく、せっかくのチャンスが……まあ、時間はあります。早いとこ片付けて……」


「だ、誰だ、テメェは!……いや、テメェは……」


 ボスらしき男を筆頭に、集団に動揺が広がります。皆が口々に「何で分かったんだ……」「見えているのか……」「なんで裸なんだ……」などと申しております。


 まったく、質問の多い人たちですね。でも、それに答えるのにはたった一つの事実で十分です。なぜなら私は——。



「——闇も、隠した足音も、私の前では意味をなしません。私は誇り高きエルフ族、レザリア。レザリア=エルシュラントです。以後、お見知りおきを」






「構わねえ、全員で一気にやっちまえ!」


 ボスらしき男の号令がくだります。騒がしいですね、テントには『防音魔法』を掛けておいたので大丈夫でしょうが——。


 ——トスッ、トスットスッ


 まずは第一射。同時に放たれた三本の矢が、先頭の三人の足を射抜きます。


「ぐおっ!」


 悲鳴を上げ転がる三人。後続の者たちの一部はそれにつまずき転がります。どうやら『暗視魔法』を掛けているようですが、夜目の効くエルフの視界には遠く及ばないみたいですね。


「……ふふ。リナが近くにいますゆえ、命までは取りませんが……あなた達、遅すぎますよ?」



 ——トスッ、トスットスッ



「うぎゃ!」


 続けて三人。おや、集団から魔力の波動を感じます。魔法でしょうか。でも——。


「——撃たせませんよ」



 ——トスッ、トスットスッ



 魔力を高めていた二人と、ついでに一人。しかしその隙に、私の横を通り抜けた者がテントに向かって行きました。


 私は矢をつがえ振り向きます。


「行かせるわけ——」


「……その声……レザリア?」


 何ということでしょう。振り返った私の目に映ったのは、寝ぼけ眼をこすりながらテントから出てくるリナの姿でした。いけません、この暗闇では彼女は——。


「おとなしくしやがれ!」


「……ぐっ……誰よ、あんた……!」


 射線上の彼女に気をとられ一瞬躊躇した隙に、一人の男がリナを捕らえてしまいました。くっ、このレザリア一生の不覚。


 私はとりあえず背後から来る三人を射抜き、リナの元へと駆け寄ります。


「リナぁ!」


「動くな! 動くとコイツがどうなるか——」


「リナぁ!」


 私は走りながら自分の荷物を拾いあげ、真っ直ぐ男に駆け向かいます。


「止まれ、止まれよおっ!」


「とうっ!」


 私は構わず男に飛び蹴りを喰らわします。衝撃によろめいてリナを解放する男。よし、今です。


「——エルフ流束縛術、壱ノ型・夕凪!」


 ビシッ。


 リナに手を出そうとした不埒な男は、私の奥義により一瞬にして簀巻すまきになりました。ふう、危ないところでした。


 しかし——見るとリナも地面に倒れているではないですか。軽く咳き込んでいるリナ。私は振り返り、残党どもを睨みます。


「……よくも……よくも私のリナを……」


「……え? は? あんたが……」


「許しませんっ!」



 洞窟内に矢が乱れ飛びます。そして最後、ボスらしき男を——



「——エルフ流束縛術、零ノ型・明鏡止水!」



「うぎゃああぁぁっっ!」



「……フッ。あなた方より獣の方が、よっぽど歯応えがありますね」



 ——こうして報復を狙った組織の残党どもは、今度こそ壊滅に至ったのでした。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ