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03 エルフ、棘が刺さる





 私がパーティを追放されてから一ヶ月ほど経過しました。


 その間、リナたち『白い燕』は、いくつかクエストに向かいましたが——



「……ふう。今回も何とかなったね」


「うん。でも、いつもより魔物の数が少なかったような……」


「そだよね。ちょうど私たちでも倒しきれるくらい……」



 ——はい、わたくしめでございます。露骨にやると気づかれてしまいますので、適当に間引きさせていただきました。


 そんな彼女たちはどうやら次のクエストを受けたみたいです。ギルド内は喧騒に包まれておりますが、問題ありません。エルフ族は耳がいいですし、何より私がリナの声を聞き漏らすはずがありせん。


 私は彼女たちの会話に耳を傾けます。


「いやあ、でも『白い燕』指名の依頼なんて初めてだよね。私たちの頑張りも認められてきたってことかな?」


 おやおや、指名の依頼ですか。ようやくリナの魅力に世間が気づき始めたようですね。嬉しいですが、変な虫が寄ってこないように一層気を引き締めないと。


「でも、私たち三人でだいじょぶかな」


「うん。近くの洞窟探索だから危険は少ないと思うけど……」


 ライラ、カルデネ、ご安心ください。このレザリア、洞窟探索だろうが魔王討伐だろうが確実にサポートしますゆえ、あなた達二人はせいぜい敵の注意を引きつけてリナを楽にしてあげてください。


「まあ、着実に依頼をこなして実績をつんで、『二つ星冒険者』目指そうよ。二人とも、よろしくね!」


「「うん!」」


 そうなんです。パーティを組む時、リナは言っていました。『三つ星は無理だとしても、いつかみんなで二つ星冒険者を目指そうね!』と。


 ふふ、リナ、二つ星なんて自分を過小評価しないでください。あなたは三つ星に相応しい人物です。このレザリア、その夢を叶えるために全力で手助けしますとも——。



 しばらく打ち合わせを続けた彼女たちは、やがてギルドを後にしました。私は潜んでいた空の酒樽から飛び出します。


 スタッ。


 何やら周りの人が「またいたよ……」とかつぶやきましたが、私がそちらの方を見ると慌てて目を逸らしました。いいですか? 私が潜んでいたことを洩らしたら、ただじゃおきませんよ?








 私は匍匐ほふく前進で草原を進んでいきます。誰ですか、草原を通らなくてはいけない依頼をしたのは。


 近くの洞窟とはいえ、街からは半日ほどあります。森なら木々を渡り歩けばいいので尾行は楽ですが、見晴らしの良い草原、隠れる場所なんてありません。


 そんなこんなでリナの後を匍匐前進で追い続けること約半日、無事、夕方頃に目的の洞窟へとたどり着きました。


 リナの声が聞こえてきます。


「どうする? ここで夜営をするか、洞窟の中で夜営をするか——」


 依頼はこの洞窟にある鉱石の採掘。割と人の手が入っている場所なので、ここの洞窟の魔物は駆逐されているはずです。


 なら。


「——じゃあ、洞窟の中にテント張ろうか。外よりかは安全だと思うから」


 さすが私のリナ、賢明な判断です。まあ外で夜営しても私が虫の子一匹とて近寄らせはしませんが。



 こうして『白い燕』は洞窟の中へと入っていきました。洞窟の中には隠れる場所がいっぱいあります。それすなわち、リナにもう少し近づけるということ——。


「……ふふ。リナぁ、安心して探索に勤しんでくださいねえ……」



 ——この時、私は気づいていませんでした。『白い燕』を追放されてから一ヶ月。それが、私の判断力を狂わせているということに——。







「……これだよね?」


「やった! 見つかったね!」


「うん、早く採掘しちゃお!」



 ——『灯火の魔法』で照らされた洞窟内。思ったよりも深くまで潜ってしまいましたが、リナはお目当てのものを見つけられたようです。さすが私のリナ。


 私は採掘する三人を物陰から見守ります。あ、これリナの匂い。



「じゃあ、遅くなっちゃったし、ここにテント張ろうか」


「さんせーい!」



 指名の依頼をこなせばギルドからの評価もいつもより上がることでしょう。ふふ、想い人が認められていく様子を見るのは、至上の喜びですね。


 私は楽しそうに話す三人を眺めます。ああ、本当なら私もあの輪の中にいたのに——。


 チク。私の胸に、何かトゲのようなものが刺さりました。この感情——私は胸に手を当て、うつむいてしまいます。




 やがて灯りは消され、洞窟内は暗闇に包まれました。



 そして三人の寝息が聞こえ始めた頃、私は立ち上がりました。そう、私はトゲを抜いてもらわなければなりません。



「…………リ…………ナぁ………」



 私は服を一枚ずつ脱いでいきます。一ヶ月の禁欲生活、私に耐えきれる訳がありませんでした。




 はい、夜這いチャンスです。








 男たちの集団は洞窟内を歩きながら話す。


「『白い燕』は誘い込めたんだろうな?」


「はい、ギルドで指名したら、まんまと食いついてきましたぜ」


「……まったく、奴らのせいで俺たちの組織は……見てろよ、アイツら全員、売っぱらってやる」





 ——『白い燕』が結成される契機となった『人身売買組織壊滅事件』。


 その残党の魔の手が、今、『白い燕』を襲おうとしていた——。





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